お猫様の言うとおり
兄弟(p29-
―父の働く病院の、日当たりの良い一室、そこに母さんは眠っている。
動かないし、目に見えて表情が変わることも無いし、まして口をきくことも無い。
“植物状態”という呼び方が、正しいものかは分からないけど、
母さんは確かに、生きているのだ。
ずっと昔、そんな風に兄さんに言ったら、悲しそうに笑われたこと、僕はよく覚えている。
まだ小学生の頃からずっと、毎日僕は母さんに会いに来る。
母さんの好きな花をかざって、暑い日には窓を開けて、その日あったことを母さんに報告するんだ。
始めの頃、兄さんは口をきかなくとも横に座っていてくれた。
それから、病室の入り口に立ったまま入ってこなくなって、中学に入る頃には、病院にすら寄り付かなくなった。
兄さんが無情だからそうなのではないこと、僕も父さんも知っている。
優しいから、僕らの姿を見ていられないだけだ。だから、無理に来いだなんて言わない。
「あのね、母さん。最近兄さんが少し柔らかくなったんだ。」