お猫様の言うとおり
『もう、お母さんは起きないんだ…。』
そう、静かな声で父さんは言った。
仰々しい機械に繋がれてかろうじて息をする母に、泣きつく弟、黙って肩を抱く父、
でも僕は、母に触れなかった。
『すまない…。』
謝る父。
「お父さんのせいじゃないよ…。」
その頃、年のわりにはずいぶんと物分りのいい子どもだったようだ。
「お母さんは、もう起きない。」
二度とあの笑顔は見られない。
「お母さんは、もう話ができない。」
名前を呼んでくれはしない。
「分かったから、僕はもう、大丈夫。」
泣きながら弟が放そうとはしない母のあの手すら、
もし、冷たかったら?
そう思うと、僕は怖くてたまらなくて、触れなかった。