お猫様の言うとおり
「私ね、こうやってお母さんに撫でてもらうの、大好きだったの。」
申し訳なさそうな顔をして、僕を撫でるトオコの声は優しくて、僕の胸にはまた、別の感情がわいていた。
「撫でられていると、“あなたを愛してるわ”って、言われてるみたいでしょう?」
『…ずっと、笑っていてね、圭吾…。』
胸に沸く、熱すぎるほどの痛み…
思い出したくなかった、温かさの正体…
―母がくれたチャンスを、いつも受け入れなかった僕。
後悔したのは、撫でてほしくても、もう叶わなくなってしまった時だった。
なくしてしまった後で、もう何も母に返せないと目を背けてばかりで、
そうやって忘れていたぬくもりだった。
『いい子、いい子ね。お母さん、あなたが大好きよ、圭吾…。』
この手のように、温かかった手。
―僕は、人の手が凄く好きだった…―