アンタ達、あたしの日常どこやった?

「そうなんです。遅くまで残ると大変なんです」



意を決して、あたしはいちかばちかの賭けに出る。



ぐ、と足を踏み出して、彼女に近寄った。



「…返してください、あたしのハンコ」



「…何をおっしゃってらっしゃるの?」



まるで訳の分からないといった様子で、彼女は眉をひそめた。



「鞄、見せてくれませんか?」



「鞄が、どうしましたの?」



特に変わったところは見えない、彼女の鞄。



今、校内でちょっとしたブームの、ピンクのクマのぬいぐるみが下げられている。



「このクマ、可愛いですよね」



「そうですわね、でもこんなのつけてらっしゃる方たくさんいらっしゃいますわ」



「残念ながら、トレードマークのリボンがありませんけど」



「え…?」



そうなのだ。クマの首には赤いリボンが付いているのがトレードマーク。



しかし、彼女のクマにはそれがない。



代わりに、何かに引っ掛かったようにほつれた糸が数本出ていた。



「どこかに、引っかけて取れてしまったんでしょうね。また買い直さないと」



「大丈夫ですよ。」
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