魔王様と私
「そういえば、あなたにはまだなのっていませんでしたわね」
エーテルちゃんが突然振り向き、私を見上げた。
「エーテルちゃんじゃないの?」
私がそう言えば、きちんとこちらに向き合い、姿勢を正した。
「それは、まおうさまのみがくちにだすことをゆるされたあいしょうですわ。
わたくし、ほんみょうはエテリーヌ・フランソワーズと、もうしますの。
あなたは?」
エーテルちゃん…エテリーヌちゃん?は、滑らかな動きでドレスを持ち上げ、お辞儀した。
これぞお嬢様って感じだ。
「私は、マキ。苗字はないわ」
私が与えられた名前はマキ。
ここでの名前はマキ。
私は、ただのマキだ。何者でもない。
エーテルちゃん…じゃなかった。エテリーヌちゃんは、私の言葉に大変驚いたようだ。
素っ頓狂な声をあげた。
「あなた、へいみんでしたの!?」
平民って。いや、エテリーヌちゃんが貴族だってことは薄々気づいていたけどさ。
つか、魔界では、苗字無し=平民なんだな。
つか貴族制なんだ。
「平民ってゆーか、記憶がないから、わかんないんだ」
あぁ、私はこうして今日も嘘を重ねていく。
エテリーヌちゃんは、首を傾げた。
「では、なぜ、こんなところにいますの?」
「魔王に拾われたから」
「まおうさまに?……は!わすれていましたわ!あなた!まおうさまのなんなんですの!?」
せっかくデレてきてたのに、魔王がでた途端、これか。
気持ちが落胆し、私の顔から笑みが消える。
魔王をだしたのは失敗だったな。
「んー、ペット?」
抱きつかれて、膝に乗せられて、キス強請られる。
一見、恋人のようにも見えるが、ペットを扱う時も、こんな感じだし、きっとそうだ。
私がそう言えば、エテリーヌちゃんは納得したように大きく頷き、
「そうでしたの。わたくしったら、かんちがいしていたようですわ。
きおくがなくて、さぞこころぼそかったでしょう。
それなのに、わたくしったら、もうしわけございませんわ」
と、頭を下げられた。
貴族ってこんなに何回も頭下げていいものなの?
やっぱり子どもだから許されるのかな。
「いいって。さ、魔王のところ行こ」
「ええ」
嘘つきの私には、エテリーヌちゃんのその笑顔が眩しい。
そんな私が差し出す手に、エテリーヌちゃんは手を重ねる。
この子には、ずっと純粋なままでいてほしい。
そう思った。