魔王様と私

「わたくし、めがわるくなってしまったようですわ。

なぜ、ここがじょうかまちだとおもってしまったのでしょうか」

…それは目が悪くなったんじゃなくて、真実だからじゃないでしょうか 。

今、私たちの前には、この前視察に行ったばかりの城下町と、同じような並びの屋台が連なっていた。

「………うん。私も思った」

なんでだろうね。
魔王城唯一の門を通らないと、外にはでれないはずなのに、でた覚えがないよ。
てか、通る前にエテリーヌちゃんが止めるよね。
なのに、なんで私たちはこんなところにいるんだ。

「まおうじょうはとってもひろいのですね。
わたくし、こんなところがあるなんてしりませんでしたわ」

いや、ここ完全に魔王城じゃないと思う。

「マキ?そろそろ、まおうさまのおへやにもどりましょう?
わたくし、あしがぼうのようにおもたいですわ」

エテリーヌちゃんが手を引っ張るが、ごめん。

「帰り道、わかんなくなっちゃった」

「…はぁ!?」

いや、本当、ごめんなさい。


「どうして、だれにも気づかれずにまおうじょうからでることができますの!?もんのまえには、へいがいたはずなのに!」

あぁ、エテリーヌちゃんの言葉が心に刺さる。
だよね。私も思った。

「…なんでだろうね」

「もう!はやくもときたみちをすすみましょ!」

エテリーヌちゃんがきた道を戻ろうとするが、やっぱり疲れているようで、歩みが遅い。

「おんぶしてあげようか?」

「?」

エテリーヌちゃんの前で立ち膝し、背中を見せる。

「はしたないですわ。もっと上品な抱き方があるでしょう」

だが、エテリーヌちゃんが乗っかってくれない。
上品な抱き方…?あぁ、お姫様抱っこか。

「了解しました。姫」

余興に、膝立ちのまま方向転換し、左手をとり、甲に軽く口ずけを落とす。
そして、エテリーヌちゃんを抱き上げる。

「きゃっ!」

急に動きすぎたらしい。
エテリーヌちゃんが可愛らしい声をあげた。

「申し訳ございません。姫。
では、魔王城へ行くとしますか!」

いつも迷子になる時は、見知らぬ土地にたった一人だった。
恐くて寂しくて、心細い。
でも、今はこの腕に抱く小さな存在が、心に安心感を与える。
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