魔王様と私

オレはレオ。苗字はない。

ここらじゃちょっと名がしれてるガキ大将だが、あいにく女の扱いにはなれてないんだ。
それなのに、こいつ、どうしろっていうんだ?

オレは、こいつの名前を知らない。
きているふくからこいつはきぞくだということがわかるが、それいがいはさっぱりだ。
それに今、こいつはおねんね中。
身ぐるみはぎ取って、ズラかるか?

そう思い、オレがこいつのふくに手をかけたときだ。

「マキ…」

おどろいた。
つい、手をはなしてしまうくらいに。

マキか…。なんかさっきも言ってたな。
マキをさがしてだっけか?
ってもなー。オレ、マキがだれか知らねぇし。
さがせって言われてもむりだし。
名前からして、女か?
でも、それだけのじょうほうじゃ、さがせるわけねぇじゃねーか。

「わるいけど、オレにはどうもできねぇよ」

てことで、ちょいとしっけいするよ。

オレは、こいつのふくをぬがそうとボタンを外そうとした。

…あれ?
これ、どうやって取るんだ?

きぞくのふくなんて、見たのもふれたのも初めてだったから、ぬがし方なんてわかるわけねぇ。

なんでこんなに着込んでるんだ?
ふくは全部フリッフリだしよ。
くつもピッカピカだぜ?
こんなんでうごけんのかよ。
かみもぐしゃぐしゃになってるけど、すっげーいー匂いするしよ。

きぞくさまってのは、ずいぶんとごうかなんだなー。

って、ちげぇよ!
ふく取ってズラかるんだよ!
あぁくそっ!めんどくせぇな!

くつだけ取るか?
ここ(スラム)じゃ、買い手さえ見つかれば、このくつとかみかざりだけでも、しばらくは食っていける。
これで少しはシスターも楽になるだろう。

オレはすばやくくつとかみかざりを取った。
こうなったらもうこいつに用はねぇ。

「じゃあな」

オレはかけ足で教会へむかった。





「なんだコリャア!?」

早くシスターのよろこぶ顔が見たくて、近道のろじうらをとおったのがわるかったようだ。
はなが曲がるような変なにおいがするし、かべに黒いインクのようなのが大量にぶちまけられているように見える。
おそるおそる進むが、歩くたびに水たまりでもとおってるような音がするんだけど。
なんだよここ。ここでなにがあったんだ!?

途中で黒いかたまりがあった。
臭いの原因はこれのようだ。

「うぇっぷ」

気持ちわりぃ。

また進むとまたなにかがあった。
こんどは魔人らしい。

「あの〜」

こんなとこでなにしてんすか、とつづくはずの言葉は、男の殺気でさえぎられた。
じんじょうじゃねぇほどの殺気にいしきを飛ばしそうになる。
そんな自分のもてる限りのゆうきをふりしぼるが、たおれないようにするだけでせいいっぱいだった。

「……あぁ、ここにいちゃ邪魔だったね。すぐに退けるよ。行こ?マキちゃん」

さっきは気づかなかったが、男のうでにはだいじそうに女がだかれてた。

…マキちゃん?
ここにいたのか。
思い出すのは、このうでにだかれた盗品のもちぬし。
これの礼だ。伝えるだけ伝えてやるよ。

「ちょっと」

「……なに」

「その女のことをさがしてたきぞくのおじょうさまがいたぜ」

「………あぁ、エーテルか。
うん。わかった」

「それだけだ。じゃあな」

オレはふたたびかけ足で教会へむかった。
だが、あんなこうけい、スラムでも早々見られない。
つまり、オレが見たのも初めてで、途中、何度か吐いた。


< 21 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop