魔王様と私

あの迷子事件から数日。
途中で意識を失った私は、いつの間にか自室のベッドで寝ていた。

豚に抑え付けられたところも、異常はなく、至って正常だった。

あのあと豚がどうなったかなんて知らない。聞きたくない。
私は弱いから、すぐに嫌なことから目を逸らす。
そうでもしないとやってけない。

ってことで、読書中。

空いた時間、魔王字を教えてもらい、今では子供用の絵本なら読めるようになった。

魔王は隣の部屋で仕事中。
いい加減溜まった仕事をどうにかしないといけないらしい。
私に字なんか教えてる暇があるなら、さっさと仕事して来いと放り投げたのだ、私が。

穏やかな日が照らす静かな空間で、一人読書なんて、すごく久しぶり。
たまにはこういうのはいいな。
週に一度ののんびりタイム。

「マキ!!」

…私ののんびりタイムは、勢いよく扉を開いたエテリーヌちゃんによって終わりを告げた。

「いらっしゃい。エテリーヌちゃん」

本から顔をあげ、微笑みかける。
怒ったような顔のエテリーヌちゃんは、今日も可愛かった。

「いらっしゃいじゃないですわ!!あなた、わたくしがどれだけしんぱいしたとおもっていますの!?
あぁ!もう!ちゃんとねてなさいな!」

私は今、窓際のソファー座っている。
それを、エテリーヌちゃんは私の腕を引き、ベッドへむかわせようとする。

「大丈夫だよ。別に身体に異常はないし」

「でもっ!」

「それより、エテリーヌちゃん。
魔王は隣の部屋だよ?」

エテリーヌちゃんが魔王城にいるということは、きっと魔王に会いにきたんだろう。
そう思ったのだが、どうやら違うらしい。

「しってますわ!わたくしが!あいにきたのは!マキ!ですわ!」

顔を真っ赤にして、文節ごとに区切るほど強く主張する姿は胸キュンどころじゃない。
はっと鼻を隠す。
大丈夫だ。鼻血はでてない。
私でこれなんだから、きっとそういう人たちにとっては鼻血ものだろう。

「マキ?…はっ!やっぱりぐあいがわるいんじゃないんですの!?は、はやくねてなさいな!」

「だから大丈夫だって」

心配性のエテリーヌちゃんに苦笑を隠せない。
エテリーヌちゃんってこんな子だったんだ。

「ところでエテリーヌちゃん」

「エーテルとよんでくださいな」

What?

「それって、魔王だけが口にすることを許された愛称じゃないの?」

確かにそう言っていたはずだ。
エテリーヌちゃんはしどろもどろになりながらも、必死にその小さな口から言葉を紡ぐ。

「それは…と、とくべつにマキもゆるしてさしあげます!いいから、つべこべいわず、エーテルとよびなさいな!」

どうやら懐かれたらしい。
慕われるのは、嬉しくないわけがない。
頬が緩む。

「うん。エーテルちゃん」

でも、ちゃんはつけさせてね。

「ふ、ふん!これからは、まおうさまにあうついでに、マキにもあってあげますわ!こうえいにおもいなさい!」

「は、ありがたき幸せ」

あぁ、喜ぶエーテルちゃんは可愛い。
まるで彼女の周りに花が咲き誇っているようだ。
いや、彼女自身がもう花の妖精か。
こうして、初めて私に魔人の友人ができた。

色々あったけど、終わり良ければすべて良し。
明日から、また楽しい一日が続けばいい。
私はそんな期待を込めて、エーテルちゃんの頭を撫でた。
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