魔王様と私

「マキちゃんチュー」

このセリフ、いったい何度目だろうか。
毎日聞いてる気がする。

「してほしければ、私に料理する許可を頂戴」

私がそう言えば、即返事が返ってきた。

「え、ダメ」

どうしてそんなに迷いなく答えられるのか。
私のキスの価値はその程度なのか……!

「何故」

「マキちゃんが怪我したら、大変」

「しないし」

「ダーメ」

そう言って私の頭に顎をのせる魔王。
急に加えられた重さに思わず背中が曲がり、うわっと小さく漏れた。
それを直して、魔王に聞こえるくらいの声で小さく

「料理できたら、魔王にも食べさせてあげるのに…」

と呟いた。
すると頭に乗っていた重みが消え、頭上から興奮したような明るい声が降ってきた。

「マキちゃん、それ本当!?」

思った通りの反応をしてくれた魔王に少し笑う。

「本当。でも、料理するの、ダメなんだもんね。諦め「ヤダ。
マキちゃん、作っていいよ。でも怪我しないでね。あと、危ないから刃物は使ったらダメだよ」

その言葉とまた頭に重みが乗る。
なんだよそれ。包丁使わないで飯作れと?
包丁なしで出来んのは菓子だよ菓子。

「ふざけないで。包丁無しでなに作れって言うの?それともなに?あんたが変わりに包丁使ってくれるの?」

「うん、いいよ」

魔王が頷くことによって、私の首も動き、今の言葉が聞き間違いではないことを証明した。
冗談のつもりで言ったことを、魔王が本気で了承したのに驚いた。
つい、魔王が慣れない手つきで包丁を扱っている場面が頭に浮かべる。

ダメ。絶対。
それ魔王が危ない。
絶対魔王指切る。

「ごめん。嘘嘘。そんなことしなくていいから」

「なんで?やるよ。大丈夫!怪我はしない!」

「やめて。お願いだから」

魔王に怪我させたら絶対怒られるって。
誰からと問われれば、誰かからと答えよう。

「いいじゃんかー。大丈夫だって!マキちゃんは心配性だね。もしかして、僕のこと好きになっちゃった?」

魔王の声が弾んでいる。
そんな魔王に私は冷たく言い放った。

「ないわ」

「えー!マキちゃん冷たいー」

「なんとでも言え」

これで話は終わりだという意思を魔王の膝から降りるという行動で示す。

「マキちゃんのいけずー」

勝手に言ってろ。
後ろからの不満げな声は無視した。




「マキちゃんこれなにー?」

「パフェ。でもしょっぱい」

「やっぱり一緒に作る?」

「いや、いい」

私は今日も頭に魔王の顎を乗せ、まずい(作ってくれた方には申し訳ないが、これが素直な感想だ)パフェを口に入れる。
ああ、葵ちゃんの料理が恋しい。
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