魔王様と私
私ね、前はもっと明るい性格だったの
服装OK!髪型OK!準備バッチリ!さぁ、行くよ!
そんな事を言うくらい、馬鹿でもあったんだけどね。
部屋の扉を開けて、ベッドの中で眠る大好きな人を揺する。
その時に胸を強調して、顔近づけることを忘れない。
「溯夜、起きて!朝だよ!学校だよ!はい、起きて起きて!」
「んー、ん。あー、おはよう、加奈」
まだ寝ぼけている目を細め、私の頭を撫でる溯夜。
私のお色気作戦は通じなかったようだ。
…毎日やってるからかなぁ。
初めは驚いてたのに。
それが、私の毎日の日課だった。
「おはよっ!はいはいベッドから出て!着替えて!下で待ってるから!」
溯夜の頬を軽く叩いてから、部屋を出て、階段を降りる。
キッチンから葵ちゃんが顔を出す。
「加奈ちゃん、いつもありがとう。朝ご飯食べてって」
葵ちゃんは溯夜のお母さんで、子持ちとは思えない若さを保っている。
幼稚園の頃は、葵ちゃんが20才だと本当に信じていた。(てゆうか、葵ちゃんがそう言っていたのを純粋に信じてた)
「ありがとー、葵ちゃん!葵ちゃんのご飯美味しいから大好き!」
テーブルに並べられた色とりどりの料理を見ながら、椅子に座る。
(葵ちゃんって同じ料理、作らないよなー。いったいどれだけレパートリー豊富なんだろう)
「溯夜よりも?」
何気なくだされた言葉に体が固まる。
「ぅえっ!?えっと…その……」
「いやね、冗談よ」
そして、私の思いを知ってる人の1人でもある。
よくそのことでからかってくるので、やめてほしい。
「もー!葵ちゃんったら!」
なんだか、近所のおばさんってゆうより、よく恋バナする(させられる)大事な友達だ。
「こんなに可愛い子に好かれてるってのに、溯夜ったら、いつまで気づかないつもりなのかしら」
頬に手を当て、困ったようにため息をこぼす。
(そうなんだよねー。もう10年は思い続けてるのに…)
「母さん、おはよう。あれ、どうしたの?2人して、ため息吐いて」
「………これだから嫌よねー、鈍感は。はいはい。そんなとこに突っ立ってないで、ちゃっちゃとテーブルつきなさい」
「なんだよ、鈍感って」
なんて言いながら、溯夜は私の正面に座る。
それだけで胸がドキドキするから、もうやってられない。
「いただきまーす」
それを誤魔化すように、勢い良く手を合わせわざと大きな声で挨拶した。
キッチンの奥からくぐもった笑い声が聞こえたが、聞かなかったことにした。
「それじゃあ、いってきまーす」
「いってきます」
「いってらっしゃーい。気をつけてねー」
「はーい」
いつも通り、葵ちゃんに向けて手を振り家を出る。
学校にいるライバルたちに闘志を向けながら、溯夜の手をとり、繋ぐ。
すると、突然地面が消えた。
「…へ?」
私の口から変な音がこぼれ、そのまま闇の中へ吸い込まれた。
気づけば周りは一面人人人。
円形に囲むような形で老若男女が私たちを見ている。
ついさっき起こった出来事がなんだったのかすらわからず戸惑う。
無意識のうちに硬く握り締められていた手を溯夜は優しく広げて、そのまま手をつなぐ。
それだけで安心して、肩の力が抜けた。
「◯£◇▲:●□@*¢」
でっぷりと膨らんだ大きなお腹が特徴の、とってもキラキラ(宝石とか服とか)したおじさんが、何か言いながら一歩、私たちに近づいた。
それを警戒した溯夜は、私を庇うように自身の背中に隠す。
「£▷#≫◯」
溯夜の口からよく聞いたことのない言葉?音?が聞こえた。
(英語ではなさそうなので、アラビア語とかイタリア語とかその辺かな?)
ちゃきん
金属がこすれ合うような音がした。
状況を見ようと、背中からひょっこり顔を出し、そして、すぐに顔を引っ込めた。
(え?え?剣?さっきの人、鎧きて剣構えてなかった?偽物だよね?そうだよね?でもすごく本物っぽかった!)
混乱する頭を必死に落ち着かせようと、空いてる手で、和馬のシャツの裾を握った。
再びどっかの言葉が聞こえ、和馬はたんたんと(そう聞こえる)返事を返す。
(なんて言ってるんだろう?)
しばらく経てば、話し合いは終わったのか、私たちから離れていく足音が聞こえた。
それに安心し、今度こそ完全に背中の影からでる。
周りの人はちらほら部屋を出て行っているようだった。
よく見ると、この建物は中世ヨーロッパのような作りをしていて、足元を見ると、なにやら怪しげな魔法陣(らしきもの)が描いてあった。
(ここ……どこ)
どこかのコスプレ会場で行われたドッキリだろうか。
それにしては手が込んでいる。
(それに溯夜も共犯?ないない)
溯夜の方を見れば、なに?とでも言うように首を傾げた。
「溯夜、ここどこ?」
「んーとねぇ…」
私がそう言えば、溯夜は困ったように眉を顰めた。
その仕草が私の胸に不安を浮かばせる。
「えっとね…「◯€*×□▲¢#◎▷◇@%」
溯夜がなにか言おうとした時、誰かがそれを遮った。
声がした方を見れば、さっき剣を抜いていた人がいた。
「ひっ!!」
慌ててその人から見えない位置、溯夜の背中に隠れる。
「◯◇。
部屋に案内してくれるって。行こ」
溯夜が振り返り、手を差し出す。
溯夜の手に自分の手を重ねる。
よく状況はわからないけど、とりあえずこの人から離れたい。
「◯$€*#▲¢#◎▷◇@%」
さっきの人が90°に腰を曲げて、歩き出す。
私は溯夜に手を引かれ、その後をついて行った。