魔王様と私
鎧の人に連れてこられた部屋はこれまたゴージャスなシャンデリア(本当のお城みたい!)やキングサイズのベッド(これは2人で寝ろって意味なの!?)がある、とっても広い、素晴らしいお部屋だった。
ついつい珍しくて部屋を探索すれば、見つかる高そうな壺や花瓶。ティーポットもあったので、使わせてもらうことにした。
少し味見(という名の毒味)すると、紅茶っぽい味がした。それをカップ(お店とかでよくあるお皿付き!)に淹れて、椅子に座っていた溯夜の前に置く。
「ねぇ、本当ここどこ?コスプレ会場にしては凝りすぎてるよね?」
椅子は一つしかなかったため、溯夜は立ち上がろうとしたが、それを手で制する。
そんな気遣いができる溯夜が大好きです。
溯夜は浮かしかけた腰を再びおろし、口を開く。
「異世界」
「……?」
さっきの部屋でしたような困ったような顔をして、溯夜は言葉を紡ぐ。
「なんかさ、魔王が暴れだしたから、止めてくれって」
(……What?)
溯夜は優雅に紅茶(っぽいもの)を飲みながら、話を続ける。
「いや、今すぐに出発しろって訳じゃなくて、ある程度訓練してから、パーティーなんかも連れてってことになるんだけど…」
(パーティー?ドラ◯エみたいな感じ?)
「そのパーティーって、男?」
「ううん。全員女の子だって」
(来た…!溯夜のハーレム!また美少女が集まるのかな…?せっかくあいつらから離れられたと思ったのに…!次から次へとライバルが…!)
「私も行く!着いてくよ!」
私がそう言えば、溯夜はカップを置き、もっと困ったような顔をした。
「それは駄目だよ。余りにも危険だ」
「だって…!」
(少しでも目を離したら、溯夜なんか、あっという間に流されちゃうんだから!離してたまるもんですか!)
かといって、確かに私はただの一般人だ。
溯夜のようなチートとは違う。
かえって足手まといになるだろう。
(でも、でも、なにかいい案……。
いくら私が訓練したって、程度はしれてるし……ここは、弱みをつく形でいったほうが効果的かな…?)
「だって…溯夜がいなかったら、私1人でここに居なきゃいけないんでしょ…?……知らない世界に1人っきりは心細いよ……。お願い。私も連れて行って」
胸に手を置き、きちんと目を見て懇願する。
いつもなら、これで折れるのだが、今回は一筋縄ではいかなさそうだ。
溯夜は首を横に振った。
「それは出来ない。それに1人っきりなんかじゃない。お城の人もいるし、僕だって、同じ世界にいる。だから、大丈夫だよ」
なんて、切なさそうな表情を見せ、私の頭を撫でる。
「でも、でも…!もし、溯夜になにかあったら…!」
「大丈夫、大丈夫。僕は絶対無事で帰ってくる。そしたら、元の世界に帰ろう?それまでの辛抱だよ」
(このままじゃ、本当に置いてかれる…?そんなの嫌!…でも、あんまりしつこくして、嫌われたくない…。……どうしよう…)
黙り込んだ私を溯夜は肯定とみなしたらしく、「ごめんね」と、申し訳なさそうに頭を撫でた。
コンコン
突然、部屋の扉が叩かれた。
また、訳のわからない言葉が扉の奥から聞こえ、それに溯夜が答える。
扉を開けて入ってきたのは、さっきの鎧の人とメイド服を来た美少女だった。
「◯@£^#*±≒×…◇¢€:*%$≪+◯□×:$^*£≧∥#×:◎■*▷◯◆□€*#≫≠£^」
鎧の人はなにかを言って、何故か私を連れて、部屋を出た。
(待って!まだ話し終わってない!それに美少女と2人っきりになんかしたら、またライバルが増える!)
掴まれたてを振り払おうともがくものの、大人の男の人の力に敵うはずもなく、そのまま隣の部屋まで連行された。
連れてこられたのは、さっきの部屋とは比べ物にならないくらい、質素な部屋だった。
鎧の人は、なにか言って、すぐに去って行った。
(なに?ここが私の部屋?明らかに格差があるような…。これが、勇者様と一般人の対応の差か!…まぁ、そんな一般人をただで住まわせてくれるんだから、文句は言えないか)
「…事実、外に放り出されたら、生きてく自信ないし」
ポツリと呟いた自分の声がやけに響く。
(……さて、溯夜の部屋に戻りますか)
その時私はすっかり忘れていた。
自分が、超のつく方向音痴なことを。