魔王様と私
勇者と仲間

ここは魔の森、グランチュール。
その名の通り、ここは魔物の住処。命知らずな冒険者が入り込み、その命を散らすことから、別名死の森と呼ばれる。
そこで、今まさに、次から次へと溢れ出る魔物と戦う命知らずがいた。

次々と剣で敵をなぎ倒す女騎士。
しかし、後ろからの攻撃に反応できず、腹を切られた。

「っ!」

それにいち早く気づき、声をあげる少女。
少女はうずくまる女騎士に近づき、呪文を唱える。

「カレンさん!!…ヒール!!」

カレンの腹が光り、強張っていたカレンから力が抜ける。

「…ふぅ……姫、ありがとうございます!!」

二人の意識が向いてないところに、これ幸いと襲いかかるデビルベア。
それをギリギリのタイミングで仕留めた青年もあちこちに傷を負っていた。

「サラサ、こっちも!!」

「はいっ!ヒール!!」

阿吽の呼吸で同じように呪文を唱えるサラサの頬はほんのりと朱に染まった。

「サンキュッ!」

それに気づかずに再び魔物に立ち向かう青年。
その様子を少し離れたところから見ていたショートヘアーの少女は深呼吸し、できたばかりの巨大な魔法陣に手を当てた。

「…避けて!

水を司るウンディーネよ。今こそその力を我に与えたまえ」

少女の言葉に反応し、魔法陣は光を放つ。

「アクアヴィッセレーラ!!」

魔法陣の光が一瞬止まり、次の瞬間、渦巻く水が現れた。
それは彼らの方へ伸び、敵を渦に巻き込む。

勝負は一瞬でついた。




「やっぱ、ミリアの魔法ってすごいよなー」

野営の準備をしながら青年は言う。
それに答えるミリアは照れたように微笑んだ。

「うん。魔法…すごい。……でも…」

「発動するのに時間がかかるのが、難点ですよね」

言葉を濁したミリアのあとを継いだのはサラサだ。
サラサは破れた服を繕っていた。
正直、サラサは服など次の町で買えばいいと思っていたが、青年がそれをよしとしないので、素直に従っていたのだ。

「……うん」

話に入ってこられたことと、自分の言おうとしていた言葉を取られたことで、ミリアは微笑みを崩して眉を少し顰めた。

「ミリアは魔法陣を全て覚えているのか?」

しかし、再び青年に話を振られたことで、すぐに機嫌をなおす。

「うん…師匠…習った」

ミリアの言葉に感心したような表情をする青年は、作業が終わったのか手を止めミリアに向き合った。

「そっか。すごいな。俺だったら絶対覚えれないよ」

「…そんなこと…ない」

小さく首を振り、否定するミリアは、青年ならばやろうと思えばできると確信していた。
だが、青年はそれをしない。
なぜなら…

「サクヤは魔法陣無しでも魔法を発動させられるのだから、覚える必要はないだろう?」

カレンはミリアを見ながら、サクヤに言った。
その目は明らかにミリアを嘲笑していた。

「そうだけど…。やっぱり俺ができるのは中級魔法までだし、ミリアは俺たちの旅には必要不可欠だよ。それに、俺を召喚したのだって、ミリアなんだから」

カレンに怒気を覚えながらも、サクヤに必要されていると言われただけで、幸せな気分に浸るミリア。
そんなミリアを見て、面白くなさそうにサラサは頬を膨らませた。

「確かに、そのことについては感謝してますけど…。
勇者様、それではその女だけが必要で、私たちはたいして必要ないと言っているようではありませんか」

そんなサラサの頬を困ったような顔をして指で押したサクヤ。
プッと空気が抜ける音がした。

「そんなことないよ。
サラサがいなければ、僕らは怪我をしても回復できない。
今こうやって、野宿の準備をできるのは、サラサがヒールで治してくれたおかげだし、カレンが背中を守ってくれると思うと安心する。それに料理ができるのは、カレンしかいないしね」

そんなサクヤから目をそらし、頬を染めるサラサはふてくされたように小さく呟く。

「わたくしにこんなことする人なんて、サクヤ以外にいませんわ。
これだから、無自覚は…!」

幸か不幸か、サクヤには聞こえなかったらしく、サクヤは「ごめん、聞こえなかった。もう一回言って?」と言った。

「…なんでもありませんわ」

今度こそ、顔を背けてサラサは作業に戻った。

「そう?
カレン、できたー?」

サクヤは次にカレンに話しかけた。
カレンは鍋を見ながら「まだだ」と素っ気なく答えた。
その耳が赤く染まっていることに、サクヤは気づかなかった。
サクヤは暇を持て余すように、地面に魔法陣を描いてみる。

「……ライト」

その魔法陣を見たミリアが呟く。
偶然にも、その魔法陣はライトのものだった。

「これがライト?へー。
そういえばさ、いっつも戦闘中に描いてる魔法陣を一冊の本にまとめたりとかできないのか?」

サクヤはゲームの魔導士を思い出しながら言った。
この世界の魔道書を、サクヤは見たことがなかったのだ。

「魔道書?…できる…でも…だめ」

魔道書は、魔法を後世に継ぐために用いられる方法で、素人が行っても、発動できないようになっているのが普通だ。
それに、問題はまた別にあった。

「なんでだ?」

「魔法陣…小さい…威力…小さい」

魔法の威力は、その陣の大きさに比例する。
仮に間違えて発動させてもおおごとにならないのは、この特性のおかげであったりする。

「描いてあるページを破って、大きくすることはできないのか?」

身振り手振りで訊ねるサクヤに、ミリアは表情を暗くする。

「それも…魔法陣」

それでは、たいした時間の短縮にはならないと、ミリアは言う。
ならばと、サクヤはとあるアニメの大佐を思い出しながら言った。

「巨大化の魔法陣を手袋に描くとかは?」

その言葉にミリアの表情は徐々に明るくなる。

「………できる。いい」

それはミリアにとって、いや、この世界で誰一人として考えたこともないことだった。

「明日…紙…買う……着く?」

目を輝かせて宣言するものの以外と物事を考えていなかったミリアに、カレンが答える。

「ここから急げば、日がくれるまでには次の町へ着くだろう」

「頑張る…!……頑張ろ?」

と、周りを見るミリアに全員が頷いた。
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