箱の中の彼女
□
負けた。
負けた負けた負けた!!!!
孝太は、その悔しさをどうにも出来なかった。
トレーナーや先輩の慰めも、どれもこれも耳に入ってこない。
気づいたら、会場を飛び出して走っていた。
雨が全力で、自分の身体を叩き伏せようとするのも省みず、馬鹿みたいにただただ走った。
まだ、自分にはこんなに走る体力が残っていたのだ。
何故、それを余すところなく使わなかったのか。
何故、何故、何故!
負けることは、後悔することだ。
違う。
後悔する種があったことを、悔いることだ。
いまだ、自分が走ることの出来る事実を、孝太は憎んだ。
憎んで憎んで、走り続けた。
そして。
ばたりと、倒れた。
これが──プロボクサー孝太の、昨日の出来事。
そして。
今日の孝太は。
粥を、すすっていた。
うまい。
思えば、試合のために減量減量ときていて、ようやく試合が終わった後、あの有様だったのだ。
粥の優しい味が、胃袋に染み渡らないはずがない。
うまい、うまい。
熱いそれを、冷ますのももどかしく、孝太は口の中に押し込んだ。
おなかが満たされていくと、不思議なもので。
昨日のみじめな自分から、少しだけ立ち直れていく気がした。
「「おかわり…いる?」」
ぺろりとたいらげた孝太に、声がかけられる。
彼を拾ってくれた女の人だ。
ひどい風邪でも、ひいているのだろうか。
老婆のようなしゃがれた声だった。
こくっと、孝太はうなずく。
食欲の前では、遠慮などという理性は消し飛んでしまったのだった。
負けた。
負けた負けた負けた!!!!
孝太は、その悔しさをどうにも出来なかった。
トレーナーや先輩の慰めも、どれもこれも耳に入ってこない。
気づいたら、会場を飛び出して走っていた。
雨が全力で、自分の身体を叩き伏せようとするのも省みず、馬鹿みたいにただただ走った。
まだ、自分にはこんなに走る体力が残っていたのだ。
何故、それを余すところなく使わなかったのか。
何故、何故、何故!
負けることは、後悔することだ。
違う。
後悔する種があったことを、悔いることだ。
いまだ、自分が走ることの出来る事実を、孝太は憎んだ。
憎んで憎んで、走り続けた。
そして。
ばたりと、倒れた。
これが──プロボクサー孝太の、昨日の出来事。
そして。
今日の孝太は。
粥を、すすっていた。
うまい。
思えば、試合のために減量減量ときていて、ようやく試合が終わった後、あの有様だったのだ。
粥の優しい味が、胃袋に染み渡らないはずがない。
うまい、うまい。
熱いそれを、冷ますのももどかしく、孝太は口の中に押し込んだ。
おなかが満たされていくと、不思議なもので。
昨日のみじめな自分から、少しだけ立ち直れていく気がした。
「「おかわり…いる?」」
ぺろりとたいらげた孝太に、声がかけられる。
彼を拾ってくれた女の人だ。
ひどい風邪でも、ひいているのだろうか。
老婆のようなしゃがれた声だった。
こくっと、孝太はうなずく。
食欲の前では、遠慮などという理性は消し飛んでしまったのだった。