箱の中の彼女
□
不思議な、女の人だった。
孝太の様子は、普通ではなかったはずなのに、救急車も警察も呼ばずに、看病してくれたのだ。
物静かで、賢そうな人に見える。
自分の周りには、いないタイプだ。
孝太は、脳みその全てをボクシングにとられた、いわゆるドアホウで。
中学が義務教育でなかったならば、きっと彼は留年していただろう。
そんな孝太から見ると、彼女はとても頭が良さそうに感じたのだ。
その辺に積んである本や雑誌は、全部外国語の表紙だ。
超オンボロ和風の家に、それはとても浮いているように思えた。
「「ああ、あれ? 翻訳の仕事をしているの」」
孝太の、ぽかんとした視線に気づいたのだろう。
彼女が、小さく笑った。
翻訳と言えば、外国の言葉を日本語に訳したりする仕事、ということか。
あったま、いいんだろうなぁ。
脳みそコンプレックスのある孝太は、小さくなっていった。
「「外の仕事は、ちょっとやりづらくてね…こんな声でしょ」」
そんな微笑のまま、彼女は自分の喉を押さえる。
風邪、じゃないんだ。
孝太は、そのことを聞かなくて、本当によかったと思った。
そっか。
こんなに頭がいい人にも、コンプレックスがあるんだと。
妙に孝太は、親近感を覚えた。
それ以前に。
彼女は、命の恩人だ。
そんな人の声をつかまえて、どうこう言うことなど出来るはずがない。
「あの…ほんとに…ありがとうございます。歩けるようになったら、帰ります」
孝太は、おそるおそる声を出す。
年上の賢そうな女性に、どう話したらいいのか、失礼にならないのか、そう思うとこんな声になってしまうのだ。
そうしたら。
彼女は、本当に嬉しそうに笑うではないか。
「「そう、帰るところがちゃんとあるのね…よかった」」
花が、咲いたかと思った。
ぽーっと。
孝太は、ぽーっとその笑顔に──みとれてしまったのだった。
不思議な、女の人だった。
孝太の様子は、普通ではなかったはずなのに、救急車も警察も呼ばずに、看病してくれたのだ。
物静かで、賢そうな人に見える。
自分の周りには、いないタイプだ。
孝太は、脳みその全てをボクシングにとられた、いわゆるドアホウで。
中学が義務教育でなかったならば、きっと彼は留年していただろう。
そんな孝太から見ると、彼女はとても頭が良さそうに感じたのだ。
その辺に積んである本や雑誌は、全部外国語の表紙だ。
超オンボロ和風の家に、それはとても浮いているように思えた。
「「ああ、あれ? 翻訳の仕事をしているの」」
孝太の、ぽかんとした視線に気づいたのだろう。
彼女が、小さく笑った。
翻訳と言えば、外国の言葉を日本語に訳したりする仕事、ということか。
あったま、いいんだろうなぁ。
脳みそコンプレックスのある孝太は、小さくなっていった。
「「外の仕事は、ちょっとやりづらくてね…こんな声でしょ」」
そんな微笑のまま、彼女は自分の喉を押さえる。
風邪、じゃないんだ。
孝太は、そのことを聞かなくて、本当によかったと思った。
そっか。
こんなに頭がいい人にも、コンプレックスがあるんだと。
妙に孝太は、親近感を覚えた。
それ以前に。
彼女は、命の恩人だ。
そんな人の声をつかまえて、どうこう言うことなど出来るはずがない。
「あの…ほんとに…ありがとうございます。歩けるようになったら、帰ります」
孝太は、おそるおそる声を出す。
年上の賢そうな女性に、どう話したらいいのか、失礼にならないのか、そう思うとこんな声になってしまうのだ。
そうしたら。
彼女は、本当に嬉しそうに笑うではないか。
「「そう、帰るところがちゃんとあるのね…よかった」」
花が、咲いたかと思った。
ぽーっと。
孝太は、ぽーっとその笑顔に──みとれてしまったのだった。