Colors of Life ~ドキドキ!ルームシェア~
「年上だけど、私の方が先輩になるから、アヤメは私のことを奈々さんって呼ぶの。甘ったるい声で呼ばれるのも大嫌いで、毎朝、顔を合わせるのも億劫になった」
以前、奈々は「さん」付けで呼ばれるのが嫌いだって言ってた。
こういう事情があったのかと納得した。
話には続きがある。
毎日、ストレスを貯めながら働いていた奈々が帰宅する途中、以前居酒屋があった跡地の前に佇んでいたことがあった。
老夫婦は田舎に土地を購入し、リタイア後は農業をしながら余生を楽しむのだと言っていた。
奈々のことを本当の孫のように可愛がってくれて、サービスだよとよく料理をご馳走になった。
閉店の日、奥さんの好きな胡蝶蘭の鉢をお店に持って行ったら、涙を流して喜んでくれた。
引越し先の住所も教えてくれた。
あの老夫婦と繋がっていることは嬉しい。
でも、ここは私に元気をくれる場所だったのに、今は更地になってしまった。
「奈々」
声を掛けられて驚いた。
紫村さんだったからだ。
「ここ、すっかり無くなっちゃったな。俺たちの秘密の場所」
隣に立ち、懐かしそうに目を細める。