キスは触れて離れた……
「……」
近くで見ると、とても端正な顔をしている。
その顔が自分の方へ少しずつ近づいてくる。
「あ……あの」
瞬きを数回する間に、男性は私の唇に軽くキスをした。
その感触はふわっと唇に乗ったかと思うと、すぐに離れていった。
「……風邪ひかないようにね」
今キスした事なんか、なかった事のように……男性はそう言って微笑んだ。
「……はい」
まだ湯気の出ているマグをギュッと握り、自分の心が混乱するのを必死で抑える。
彼氏ともした事のない甘い……甘いキスだった。
こんなのいけない事なのに。
違和感も罪悪感も無いのが不思議だった。
END