嘘、鬼よ。
「ほら、握り飯だよ。」
考えに集中していたためか、男が入ってきたのに気づかなかった。
もう、食事の時間か…
罪が立証されてないからか、私が大人しいからか、食事の時は辛うじて縄をはずされる。
ふと、男を見上げると、やけに小柄だ。
あのとき…、確か永倉の隣にいた小柄な少年。
珍しいな…。
こいつが来たことはなかったのに。
そもそもあの場にいたのは、沖田や土方、永倉からして組長クラスの幹部だ。
なぜ、そんな人間が、私の食事を……?
「お前も大変だな…。
俺よりもまだ若そうなのに」
「大変そうだと思うならここから出してくれ」
お握りを頬張りながら、冗談半分に言ってみる。
勿論、出してくれるはずもないだろうが。
「それは、無理なお願いだね。
でもさ君、今両手が自由で相手が俺一人しかいないんだよ?
逃げようと思えば逃げれるんじゃない?」
は?
「それは、私に逃げろとうながしているのか?」
「まさか!
なんでそんなに大人しくてんのかなーって」
「ここを出ても、隊士が山ほどいるだろう。
別に縛られていることを除けば、なに不自由していない。
食事は出るし、夜風には当たらないし。」
実際そうだ。
食事は私にとっては多いくらいの量だし、どちらかと言えば室内は暖かいし。
「君、面白い考え方するんだね。
沖田さんや土方さんが気になるのもよくわかる」
気になる?疑っているの間違いではなくて…?
なんて、心のなかで毒づいてみる。
「君、本当に長州の間者なの?」
「だから、違うといっている。」
「本当に長州の間者でも、はいそうですとは言わないだろうけど?」
「なにが言いたい?」
「このままじゃ、殺されるよ」
そう、か。
「ま、殺すなら一気にやってくれ。」
「は?なんで?」
「そうすれば、痛くないだろう?」
痛いのは、ごめんだからな。
「……死にたいの?」
「勿論生きてたいが?」
本当は、どちらでもいいがな。
「そうは見えない。」
「は?」
「生きることにも、死ぬことにも、依存しているように見えないといってるんだよ。」
こいつ童顔の癖に、鋭いな。
さすが、幹部だということか
「まぁ、そうだな。
言うとおり。
別にどっちでもいい。
生かされようが、殺されようが」
「親御さんが悲しむよ。」
親御さん。ねぇ…。
「あの人は悲しまないよ。」
「えっ」
「いや、別に。
…さぁ、食べ終わった。
さっさと、私を縛れ。」
「………うん。」