嘘、鬼よ。









「そっかー。
じゃあ、三冷はこれからの世がどう動くか全部わかるのかい?」





わかるよ。

そう、答えようとしたものの、喉の奥につっかえてまるで声が出てこない。

カスカスと息が出るだけで、質問の問いに答えられない。




それが何のせいで、どうしてなのかは、分からなかったが、つまりこの質問の答えは、タブーということだと思う。



ここから先は、危険ということか…





「わからない。」


「どうして?」




法螺話は得意分野。



「私たちは、未来の世でこの時代のこと、この時代よりも前のこと、そしてこの時代の後の出来事まで教えられるんだ。
教育の義務として。
でも、あまりにも学ぶことが多すぎて大半ははしょられる。
だから、この時代の大まかなことはわかっても、詳しくはわからない。
それに私は、その分野においては余り得意ではなかったからな。
覚えていないんだ。」





完璧な嘘。と自分でも言える。


本当は日本史得意だし、全然はしょられないけど。





正直、ドラマとかアニメとかで、何か秘密がばれそうになったときに主人公が吐く下手な嘘は、見ているだけでイライラするんだ。


私ならこうして切り抜けられる、もっと上手い嘘がつけるだろう、と。





「そうなのかー。
なんとなくわかったような分からなかったような。」



藤堂と原田と永倉が顔を見合わせ微妙な顔をする。





なんだか、想像していたのと違うな。


もっと厳しそうだと思っていたのに、意外に幼いし全然現代の人とかわりない。




人斬り集団と言われた彼らがこんな人たちだなんて思ってなかった。





「三冷くん。」


「なんだ?」



「君に帰る場所はないのかね?」


近藤がいかにも同情といわんばかりの表情で見てくる。




別に同情がいやなんじゃない。

人間として当たり前の感情だ。


だけど、何処かでちょっとガッカリしてるのは、近藤勇という人物を心のなかで美化しすぎていたからかもしれない。




落ち着け私。
彼らも普通の普通である日本人だ。

なんはかわりない。
理想を押し付けるな。




「無い。」



「これからどうするんだい?」




これからどうする?だと?


そんなの私が聞きたいに決まっている。



とりあえずは、


「未来へ帰る方法を見つける。」



「そうか。
じゃあ、見つけるまでどうやって生活するんだい?
もし見つからなかったら?」


なんでそう否定的に言うかなー。



「…それ、あんたに関係ある?
私が未来に帰れようが帰れまいがあんたには、メリットもデメリットもないでしょ。」






ここにいる全員が、メリットとデメリットの意味をわからないと思う。


でも、その意味を私に聞こうとはしない。




私が怒っているように見えるからか、恥ずかしくてとても意味なんて聞けないからか、とにかく聞けないのだろう。


この私に。





「三冷くん。
そうだね、私には関係ないね。
でも、勝手に同情しておせっかい妬きたいな、と思うのはいけないことなのかい?」



…あぁ、やっぱりこの人は想像通りの人なのかもしれない。




いいや、想像以上の人なんだ。


私の、近藤勇という人の理想をはるかに越える素晴らしい人物だ。




「三冷くん。
壬生浪士組に入らないかい?」




…は?



「ちょ、近藤さん!?
いきなり、なにいってるんですか!?!?
こいつは女ですよ!!」





「とし、そんなことは知っているさ。」


「じゃあなんで。」




「おせっかいを妬きたいんだ。
この未来から来た美少女に。」




「おせっかい…?」



何をいっているんだこの人は。

まったく読めない。



「そう、おせっかい。
壬生浪士組に入れば、三食寝床つきで、未来へ帰る方法も探しながら生活できる。
それに、我々としても隊士が足りなくて困っているんだ。
その、右の手の平の中指の付け根についているタコは刀を使っている証拠。
木刀と竹刀を持ち歩いてることから、剣術に志があるんだろう?
なら、壬生浪士組に隊士として入らないかい?
悪い話じゃないはず。」







手のひらのタコいつの間に見られたんだろう。

物凄い観察力だ。



そして、持ち物からの推理力も。







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