運喰らう娘
戦士たち
「しまった!」
肉紐が絡みつく。
周囲が異常に枯れている時点で、触手植物の存在に気づくべきだったのだ。
闇雲に剣を振る。
数多ある肉手を切り落とすには足りない。
首に巻きついた一本が締まった。
頚動脈の圧迫に意識が持っていかれる……
……懐かしい夢だ。
陸兵学校の思い出が浮かぶ。
刈り込んだ茶色い髪。
懐っこくて、子犬のように可愛い後輩。
(あの子にもう一度……)
彼の名前は……
「エコー」
ぼんやりと呟けば、間抜けた声が答える。
「はい?」
風の切れる音に、触手が緩む。
目を開けば剣跡と、ハニーブラウンの髪が揺れていた……
斃した触手から、エコーがチェリーを救い起こす。
「『荒乙女』が、随分な有様ですね?」
「触手は専門外なの!」
「触手は基本でしょう。多肢の相手に相応しい編隊、武器、戦略を……」
「ああ、もう! 相変わらず口煩いなぁ!」
見た目は……カッコよくなった。
背だって伸びた。
肩も広く、戦士に相応しい筋肉質の……
「ところで今、カレシ居ます?」
「ナンパなのも相変わらずなのね」
「ひどいなあ、先輩にしか言いませんよ」
「残念だけど、ラブラブなの」
右手にはめた指輪をかざす。
「ちぇ、相変わらずモテモテですね」
そうでも無い。
彼のタイミングが悪いだけだ。
不意に、鋭い眼差しが降る。
「彼は戦士ですか?」
「『殲滅屋』って呼ばれる、群生魔物退治の専門家よ」
「俺だって最近は『雷閃の』って二つ名で呼ばれてるんですよ?」
エコーが大げさに肩を落とした。
「まあいいや。そいつより長生きすればいいんだし」
「縁起でもないこと言わないでよ!」
「自分が陰でなんて呼ばれているか、知っています?」
『喪服の乙女』
付き合った男が、相次いで散ったことからついたものだ。
男の運を食らう毒婦だと……
「大した幸運もないヤツが、先輩みたいな美人を手に入れたんだ。運を使い果たして当然です」
「随分と運に自信があるのね?」
「運だけはいいんですよ。だから、安心して付き合ってください」
「カレシが居るんだってば!」
「そっか、じゃあ今はいいや」
エコーは踵を反す。
「ま、死ぬ予定はありませんから?」
気安く振られる手を見ながら、『喪服の乙女』は思い出していた。
彼の告白を断った本当の理由を……
肉紐が絡みつく。
周囲が異常に枯れている時点で、触手植物の存在に気づくべきだったのだ。
闇雲に剣を振る。
数多ある肉手を切り落とすには足りない。
首に巻きついた一本が締まった。
頚動脈の圧迫に意識が持っていかれる……
……懐かしい夢だ。
陸兵学校の思い出が浮かぶ。
刈り込んだ茶色い髪。
懐っこくて、子犬のように可愛い後輩。
(あの子にもう一度……)
彼の名前は……
「エコー」
ぼんやりと呟けば、間抜けた声が答える。
「はい?」
風の切れる音に、触手が緩む。
目を開けば剣跡と、ハニーブラウンの髪が揺れていた……
斃した触手から、エコーがチェリーを救い起こす。
「『荒乙女』が、随分な有様ですね?」
「触手は専門外なの!」
「触手は基本でしょう。多肢の相手に相応しい編隊、武器、戦略を……」
「ああ、もう! 相変わらず口煩いなぁ!」
見た目は……カッコよくなった。
背だって伸びた。
肩も広く、戦士に相応しい筋肉質の……
「ところで今、カレシ居ます?」
「ナンパなのも相変わらずなのね」
「ひどいなあ、先輩にしか言いませんよ」
「残念だけど、ラブラブなの」
右手にはめた指輪をかざす。
「ちぇ、相変わらずモテモテですね」
そうでも無い。
彼のタイミングが悪いだけだ。
不意に、鋭い眼差しが降る。
「彼は戦士ですか?」
「『殲滅屋』って呼ばれる、群生魔物退治の専門家よ」
「俺だって最近は『雷閃の』って二つ名で呼ばれてるんですよ?」
エコーが大げさに肩を落とした。
「まあいいや。そいつより長生きすればいいんだし」
「縁起でもないこと言わないでよ!」
「自分が陰でなんて呼ばれているか、知っています?」
『喪服の乙女』
付き合った男が、相次いで散ったことからついたものだ。
男の運を食らう毒婦だと……
「大した幸運もないヤツが、先輩みたいな美人を手に入れたんだ。運を使い果たして当然です」
「随分と運に自信があるのね?」
「運だけはいいんですよ。だから、安心して付き合ってください」
「カレシが居るんだってば!」
「そっか、じゃあ今はいいや」
エコーは踵を反す。
「ま、死ぬ予定はありませんから?」
気安く振られる手を見ながら、『喪服の乙女』は思い出していた。
彼の告白を断った本当の理由を……