蒼宮の都
「ただいま」

「あっ、ラサだ」

「おかえりっ」

危なっかしい足取りで走って来たアニースとアリーを、ラサは両腕を広げて抱きしめる。
くりくりとした黒い瞳とカールしたふわふわの髪、鼻の上のそばかすまで、双子の姉弟である二人はそっくりだ。
髪を撫でてやると、くすぐったそうに目を細める。

「昨夜は何処に行ってたの?」

「ちょっと用があってね……イサークは?」

ラサがそう言ったのと同時に、奥から不機嫌そうな顔の少年が現れた。

「遅かったじゃねえか」

「ごめん」

ラサは小さく肩を竦める。


旧市街には暗黙のルールがある。
その一つが、幼い子供を皆で育てるというものだ。
母を亡くしたラサがそうしてもらったように、今はラサとイサークが幼いアニースとアリーを育てている。

「機嫌なおして。ほら、お土産もあるのよ」

ラサは足元に置いた袋を持ち上げて見せた。

「わぁ……食べ物がいっぱい」

アニースが声を上げる。

「アニースの好きなカブサ作ってあげる。アリーの好きな石榴もあるわよ」

「ホントっ?」

アリーが目を輝かせて、袋を覗き込む。

カブサはスパイスと一緒に炊いた米に、焼いた羊肉を乗せた、ファティマの定番料理で、アニースの好物だ。

「ずい分と豪勢だな……昨夜の邸は『当たり』だったのか?」

「そうじゃなくて……」

ラサは部屋の真ん中にあるテーブル(の代わりにしている物)の前に座り込み、昨夜からの出来事をかいつまんで話した。
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