蒼宮の都
「ふぅん……呑気な悩みだな」

イサークは吐き捨てるように言って、二つに割った石榴の実をアニースとアリーに渡す。
二人は競うようにその実にかぶりついた。

「豪華な宮殿に、不自由のない暮らし……何が不満なんだか」


「私もそう、思ってたんだけどね……」

黎明自身を知らなければ、今でもそう思っていたかもしれない。
「大国の姫」という立場しか知らなければ。

「まぁ、お陰で今夜の食事は豪勢だよ」

ラサは話を切り、席を立つ。

「すぐに作るから、待ってて」

そう言うと、袋を抱え台所へと向かった。




旧市街に残る廃墟は、元は王族の離宮であった(らしい)。
今は見る影もなく崩れ、瓦礫となっているけれど。
僅かに残る建物の一画や地下室に、子供達は小さな集団を作り暮らしている。

ラサ達もまた、そんな集団のひとつだ。
住まいは建物の東端、梯子をかけた二階にある。
崩れた壁を板と布で補い、窓際には手作りの竈(かまど)、部屋の真ん中にはテーブル代わりに使っている壊れた石の台がある。
布で仕切った奥はイサークが寝室として使っていた。


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