蒼宮の都
大通りに出て、商人達が忙しく行き交う市場(スーク)を抜ける。
昼を過ぎ、街に入って来る人の数は更に増えていた。
この何処かにイサークもいるはずだが、姿を見つけることは出来ない。

北へ進むにつれ人の数は減り、ざわめきは遠くなる。

やがて昨日通ったばかりの大きな邸が建ち並ぶ一画が見えてきた。
そこに見知った顔を見つけて、ラサは歩調を速めた。

「バクマルさん」

「おや、ラサじゃないか」

バクマルは細い目をしばたたかせて作業の手を止める。

「この荷物……また旅に?」

荷物のぎっしり積まれた馬車を見ながら問えば、バクマルは困ったような笑みを向けた。

「いや……ご主人がこの邸を手離すことになってね……」

「え……」

「急な話で別れも言えないかと思っていたから、よかったよ」

「どうして急に?」

「息子夫婦が帰って来ることになって……いい機会だから邸を譲って、故郷に帰るんだと」

「バクマルさんも一緒に?」

「ワシも年だし……実を言うと、ここの息子とは合わなくてな」

バクマルは憚(はばか)るように小声で言って、そっと息を吐く。

バクマルと出会ったのは二年前、道端で歌っていたラサに拍手をしてくれたのが彼だった。

「綺麗な声だ」

そう褒めてくれた彼が、仕える邸の主人が催す宴に招いてくれたのがきっかけで、ラサは他の邸にも呼ばれるようになった。


「ラサの歌が聴けなくなると思うと残念だな……」

「淋しくなるわ……」

ラサはバクマルの背に腕を回して言った。
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