蒼宮の都
王宮前に着いたのは、自身の影が濃く地面に落ちる頃だった。
風は温く、止まった途端にどっと汗が出る。

門の左右には守衛の兵が立っているが、その表情は対照的だった。
長い黒髪を項で括った若い男はやる気の無さそうな顔で欠伸を噛み殺し、色白の小柄な青年はどこか緊張した面持ちで、一点を見つめている。

「華(ファン)のマルジャーナに取り次いでもらえるかしら?」

ラサは小柄な青年に歩みより、袖に隠した腕輪を見せる。

「あ、はいっ」

青年は弾かれたようにラサを見て、慌てて門の中へ駆けて行った。

その背を追って門の奥に目をやれば、繁る椰子の木々が涼しげな音を立てて揺れている。
庭を流れる水を撫でた風がラサの髪を靡かせた。

(あれから黎明(レイメイ)はどうしただろう?)

年下の少女を思い、ラサはため息を落とす。
彼女の婚約者であるこの国の第一皇子の噂はラサも知っている。

『有能だが変わり者』

横暴よりはいいが、異国から来た幼い妻の心情を理解出来るかは怪しい。

一夫多妻が当たり前のこの国には珍しく、今の王は妻を一人しか持たない。
元侍女であった王妃との婚姻は周囲から猛反対を喰らったが、「皇太子の地位を捨てる」と言い放った息子に両親は折れた。
取り敢えず結婚させて、ほとぼりが覚めたら相応しい娘をめとらせればいいと。
だが、王の目は彼女以外を見ることはなく、その愛情に応えるように王妃は自分の居場所を確立していった。
中傷と悪意に耐え、根気よく、辛抱強く、周囲の理解を得ていった。
凛と王妃の威厳を纏う彼女は、今では国民から絶大な人気がある。

ふと気づくと、黒髪の男がラサに視線を向けていた。

「何?」

「いや」

男はどこか面白そうにラサを見ている。

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