涙のあとの笑顔
 剣術はもちろん、黒魔法も使うことができる騎士でその力は他の騎士達と大差があり、一目置かれる存在となっている。
 だからみんな、ケヴィンのことを注目するのね。
 私は実際に戦っているところを見たことがないから、一度は見てみたいと思った。
 イーディが言っていた通り、彼はいろいろな人達を言葉でからかうが、自分に興味を示した女性が近づこうとすると、適当にあしらうみたい。ガードを固くして、近づくことができないとぼやいている人達が多い。
 なぜ私を気に入ったのだろうかと疑問を浮かべる。見た目はパッとしないし、小さな物音でも怖がるし、弱いのに。
 彼は初めて会ったときからちょっと強引だけど、優しいし、世話好きだし、キスもときどきする。
 この間もおやすみの挨拶代わりに髪にキスをしてきた。今まで唇にされたことはないから一応安心している。

「あんなところを他の人に見られたら・・・・・・」
「どんなところ?」

 後ろから抱きしめられ、悲鳴を上げた。抱きしめている人はもちろん彼。

「忙しく部屋で動いていたから見ていたけど、全然気づかなかったね」
「ノックして!」
「ちゃんとしたよ。それなのに無視して悪い子だね」

 もちろん無視した訳ではない。気がつかなかったが、相手からしてみれば良い気分にはならない。

「謝るから」

 お願いだから解放して!

「俺は質問したんだよ」

 もちろん言うつもりなんてこれっぽっちもない。

「忘れちゃった」

 そう返すと、私を睨みつけてからドカッとベッドに腰をかけた。

「いつまでも立っていたらつらいでしょ?おいで」

 ゆっくりと近寄ると、隣に座らされた。

「今日も疲れた。フローラ、休ませて」
「いいよ」

 抱きしめながら吐息を吐くから、全身が震えた。

「イーディから聞いた?」
「何を?」
「俺が酒に強い話」

 イーディからそんなこと聞いていない。
 何でこんな話題にしたのかな。
 聞いていないことを伝えると、座り直した。

「酒を飲みたくなったの?」
「ううん、そうじゃない。他の人達と酒を飲むときがときどきあるんだけど、みんなはすぐに酔っ払っちゃうんだよね。そうなると、つまんなくなっちゃうわけ」
「たくさん飲むの?」
「日によって変わるよ」

 それって、そういうときもあるということだよね!?
 彼がたくさん飲むとき、どれくらいの量か、私は知らない。
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