涙のあとの笑顔

　フローラは顔を覗きこんでいる。いや、睨みつけているな。

「聞いているぜ。教えてやらない」
「肝心なところは言ってくれないのね」
「まあな」

　時計の音が鳴った。フローラがそれを合図にホールへ戻ろうとしたので、素直に従うことにした。
　戻るとケヴィンを見つけて声をかけたが、案の定、ケヴィンに怒られた。

「ごめん、ちょっと外に行って、風に当たっていたの」
「俺に言ってくれれば喜んで行ったのに・・・・・・」
「ごめん、すぐに戻るつもりだったから」

　レナードと一緒にいてその上、キスまでされたとは言う度胸なんてなかった。彼はホールに入った途端にどこかへ消えていた。
　ケヴィンが何をしても気にしないだろうが、突っかかってこられると面倒だと思ったから、そういう行動を取ったのね。

「パーティはもう終わるの？」
「あと一時間半くらいだね。いろいろなことをしているとあっという間に感じるね」
「いろいろって？」

　女の子達と長い間、話していたからとか？これじゃあまるで嫉妬しているみたい。

「何で不安げな顔をしているの？」
「不安になんて・・・・・・」
「もしかしてさっきのことを気にしているの？適当にあしらおうとしたけど、しつこくて・・・・・・」
「わかっている。違う！そんなことを気にしてなんかいない！」
「嫉妬する顔も可愛いね」

　だから違うの！もう、何でこんな態度しか取れないの！？
　しばらくは否定し続けていたが、ケヴィンはさっきまで怒っていたのに、上機嫌になり、笑顔で全てかわした。
　いつもなら胸を拳で叩いているところだが、そういう訳にはいかない。
　だからケヴィンから目を逸らすことにした。ケヴィンは溜息をつきながら、乾いた笑い声を出していた。

「怒っちゃった。ごめん、許して？」

　彼が手を伸ばそうとしている。じっとしていると、悲鳴が聞こえたので、方向を見ると、下を向いて唇を噛みしめているケヴィンとイーディがいた。

「申し訳ございません、わざとじゃないんです！」
「よく言うよ、覗き見なんて悪趣味だよね」

　どうやらイーディに足を踏まれたらしい。しかも相当痛かったのだろう。

「イーディ、だめだよ。ヒールが少し高い靴だから」
「優しいですね。フローラ様」
「イーディが無慈悲なだけ」
「あら？足元が何だか痒いわ」