涙のあとの笑顔
警戒心と裏切り
 あの日、ケヴィンと一緒に部屋へ戻り、すぐに寝た。朝になったときにケヴィンは夜中の一時まで起きていたことがわかった。不眠なのかと思い、心配していると、最近、これくらいの時間に寝るらしい。
 パーティの日から数日が経過してから、王都でニールさんとよく会うようになった。魔法大学は王都からそれほど遠くないので、帰りによくここで買い物をしたりするみたい。
 今は散歩から帰る途中、偶然アンディさんと会った。

「おはようございます。アンディさん」
「おはよう、フローラ」

 どうしたのだろう?パーティのときと様子が違う。何か神経を張りつめているけど、怒っている感じではないことはわかる。

「あの・・・・・・」
「フローラ、最近、嫌な感じがする。何かおかしなことはなかったか?」
「いいえ、何も」
「なら、いい」

 即、立ち去ろうとしたので、思わず手を握ってしまった。

「何だ?」
「いえ、あの・・・・・・」

 私ってば、本当に何をやっているのだろう?何か言わなきゃいけないのに何も出てこない!

「俺を狙っている人物。それがどうもこの辺りをうろついているみたいだ」
「それって!」

 前に話してくれた事件を起こした人のことだ。家族を傷つけたとんでもない人。

「俺はあのとき、家族の傍にいれば良かったんだ。そうしたら・・・・・・」

 レイバンお兄ちゃん、すごく悲しそうな顔。
 私は何も言わず、そっと抱きしめた。お兄ちゃんは縋るように私の背に腕を回した。
 空はこんなに晴れ晴れとして、人の笑い声も聞こえ、とても穏やかな空気が流れているのに、立っているところはまるで大雨の中のようだ。

「もういい」

 レイバンお兄ちゃんは静かに歩き出した。
 思わず立ち尽くしていると、お兄ちゃんが止まった。

「何をしているんだ?」
「何って・・・・・・」
「さっき、俺の話を聞いていただろう?戻るぞ」
「私も?」
「あいつは無関係な奴でも簡単に傷つけられる奴だ。一人でいると、さっくりとやられてしまう。それでもいいのか?」

 良くないので、否定をすると、手を掴まれ、部屋まで送ってくれた。

「フローラ、あいつを捕まえるまでは俺を見かけても話しかけるな」
「そんな!」
「外は特に危険だ」
「お兄ちゃん・・・・・・」
「俺はあいつの顔をはっきりと見ていない。口元を布で隠していたからな。だが、声や体格からして男であることは間違いない」
「お兄ちゃんに何かあったら・・・・・・」

 そう思っただけで怖くて全身が震えてくる。

「俺は大丈夫だ。自分の心配を少しはしろ。じゃあな、追いかけてくるなよ」
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