涙のあとの笑顔
「あ!」

 散歩のときに持ち歩いていた本がない。鞄の中をもう一度チェックするが、やはりなかった。
 参ったな、あれはイーディのものなのに。
 王都の服屋の近くの階段に座って読んでいたから、あそこで間違いない。
 外は当分暗くならないし、取りに行くだけだからいいよね?
 念のために武器を忘れずに持って行こう。
 王都の北区画へ行くと、本は置いていなかった。

「ない!誰かが持って行ったのかな?」

 ひょっとしたら、店員の方なら、何か知っているかも!
 服屋の店員の話によると、男性が持って行ったようだ。特徴は背が高く、黒いマントを身につけていたということだけ。

「それだけじゃあ、誰だか見当がつかないよ」

 持って行ったのなら、もう王都にいないのだろうな。

「どうかしましたか?」
「ニールさん!ど、どうして?」
「私はちょっと買い物をするために、フローラは?何か思いつめたような顔をしていますが・・・・・・」
「えっと、ちょっと物をなくしてしまって・・・・・・」
「それは大変ですね。手伝いますよ?」
「でも、大きいものですし、大丈夫です」

 何も大丈夫なことなんてないのに、こんな根拠のないことを言うなんて焦っている証拠ね。

「大きいもの?ひょっとしてこれのことだったりしますか?」

 鞄の中から取り出したイーディの本だった。

「それです!」
「返してもらいたいですか?」
「それはもちろん・・・・・・」

 ニールさんが笑っている。いつものようにからかう気!?

「可愛らしいフローラを見せてくれるのなら、返してあげてもいいですよ?」
「見せません!」

 背伸びをして本を取ろうとしたが、身長差で届くことができない。ニールさんは私の手がぎりぎり触れないところで本を持っている。

「くすっ、可愛い」
「いい加減に!」

 思い切ってジャンプをしようとしたとき、足元が大きく揺れた。

「わっ!地震!?」

 ニールさんが支えてくれ、すぐに地震は止まった。

「地震なんて久しぶりですね」
「本当に。あの、もう大丈夫です」

 離してもらえませんか?
 しかしさらに力を込めて、私を解放してくれない。

「ニールさん?」
「そんなに私から離れたいですか?」
「苦しいので・・・・・・」

 しばらくしてからようやく腕の拘束を緩めてくれた。

「あまりやりすぎて嫌われても嫌ですから、ここまでにしておきます」

 本も返してくれて、そのまま王都を抜けて行った。
 ニールさん、何を考えているんだろう?
 敵とも味方とも決めつけることができない私はその狭間に立たされていた。
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