涙のあとの笑顔
 あれから二人きりで会う回数が少なくなった。イーディと王都や他の場所へ行っても、たまに会って話をするくらいだった。

「課題をいくつか出されたから、それで忙しいみたいよ」

 イーディの言っていたことに嘘はなかった。
 クレイグさんの店へ足を運び、ルアナも課題を出されて、ここに来ていないということを教えてもらったから。

「フローラのことをよく話すよ」
「どんな?」
「最初の印象と今の印象が違っていたことやからかう後輩は何人もいるけど、フローラの反応は特に見ていて楽しいこととか」

 クレイグさんとニールさん、そんな話をしているのね。

「あんなに笑うなんて珍しいことだよ?」
「珍しい?」

 いつもニコニコしているように見えるのに・・・・・・。

「彼は笑っているように見えない」
「楽しくもないのに笑っているということですか?」
「と言うより・・・・・・」

 クレイグさんは少し考えてから口を開いた。

「どこか寂しそう」
「寂しい?」
「上手く表現はできないけど、そんな感じがする」
「寂しさ・・・・・・」

 ニールさんにも誰にも言えないくらい過去があるのかな。
 ぼんやりと考えていると、店の外で何か音がした。不審に思い、外に出ると、魔獣達が待ち構えていた。

「フローラ!」
「クレイグさん、下がっていて!」

 すぐに魔法をぶつけ、魔獣達はあっさりと倒れた。
 何かがおかしい、それに嫌な予感がする。

「クレイグさん!私、王都へ行きます!」
「待って、僕も・・・・・・」
「クレイグさんは店の中にいてください。それじゃ」

 後ろで名前を呼ばれたが、振り向くことなく、王都へ戻った。人々が怪我を負って倒れていた。呼びかけても反応しない。心臓は動いているかと確かめると、ちゃんと鼓動を打っていたのでほっとした。
 王都を見渡すと、あちこちで人が倒れていて、血が地面や壁などにも付着していた。白魔法をかけ終えたところであちこちから悲鳴が聞こえた。その中でよく知る声を拾ったので、その方向へ進んだ。魔獣や全身を布で覆った人達が暴れ回っていて、その中にステラが壁に追いつめられていた。

「ステラ!」
「た、助けて!」

 恐怖に顔を引きつらせて、逃げ道を必死に求めている。魔法を発動させ、ステラから敵を遠ざけた。

「邪魔だな。二人まとめて始末してやる」

 敵の声にどこか聞き覚えがあったが、今はそれどころではなかった。

「怪我はない?」
「うん、大丈夫だけど、王都の人達が・・・・・・」
「心配だけど、こっちを片付けよう。兵士の方達も今は別の敵を押さえている」
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