涙のあとの笑顔
「悪影響を及ぼすよ」
「しょっちゅうじゃないよ」
「私は嫌なの・・・・・・」

 しばらく私を見つめて、双眸を閉じて苦笑した。

「わかった。量は少なめにする」
「約束ね」
「フローラ、君が二十歳になったら、一緒に飲もう」
「酒のことをよく知らない、教えてくれたらいいよ」
「もちろん、約束」

 互いの小指を絡め合い、約束の契りを交わした。

「あと二年か。ちょっと遠い未来だね」

 約束をしておいてこんなことを言うのはおかしいけど、それまでずっとここにいるってこと!?

「あの、そんなにここにいたら・・・・・・」
「どうして?いきなり約束を破るつもり?」
「そうじゃない!」

 約束は守るけど、いくら客だからといって、こんな風に居座り続けるわけにもいかない。職を見つけて生活しなくてはいけない。

「せっかく楽しみがまた一つ増えたと思ったのに、君はそれを奪うんだね。悲しいな」
「だから!」
「フローラってたまに悪さをするよね。お仕置きが欲しいからわざとやっているの?」
「違う」
「ここには俺達しかいないし、何をしても文句を言われないよね?」

 壁際に寄っていくが、それにあわせて近づいて追いつめる。

「まるで猫みたい。いじめたくなっちゃうな」

 唇を三日月のように歪めて笑っている。逃げ道なんて都合のいいものはない。

「ケヴィン」

 それがまるで合図のように私の両腕を片手で壁に押し付けてじっと見ている。私はその強い視線に耐えられなくなったので、目を逸らした。

「フローラ」

 そのままゆっくりと顔を近づけてきた。鼻と鼻が擦れてさらに強く目を閉じた。

「ひよこみたい」

 両頬を片手で挟んで呟いた。すると、すぐに肩を震わせて笑っている。
 拘束された手は自由になったので、挟んでいる手を掴んだ。

「いつまでそうしているの!?」
「だって想像以上に可愛かったから」

 頬がへこんだらどうするのさ!
 片頬を手でさすっていると、もう片方をケヴィンがさすってきた。

「すべすべしている」

 私の手を取って静かに膝におろしたあと、ケヴィンの頬を私の頬にくっつけてきた。
 密着度が半端ないよ!おかしくなったらどうしよう。

「話を戻すけど、ちゃんとここにいてね。許可なくどこかへ行っちゃ駄目」

 駄目と言われても働かないと。

「でも何もしないっていうのはやっぱり・・・・・・」
「職のことはこれから考えればいい。今は生活に慣れることに専念しよう」
「はい」
「よかった。やっと頷いてくれた」

 不安が残っていても、こうして朝が来て昼が来て夜が来る。仮にここを出ても、途方に暮れてしまうだけだろう。それなら、この人達の力を借りて、逆に力になれることがあれば、自ら助けていこう。

「明日は何をしようか」
「仕事じゃないの?」
「フローラが少しでも遊んでくれるなら行くよ」

 お願いですから真面目に仕事をしてください。

「わかった、遊ぶ」

 少しだけ、本当に少しだけね。

「やった!」

 こうしていると、とても年上には見えない。
 何をして遊ぼうかと夢中になって考えているケヴィンを見ながら、やれやれと小さく首を振った。
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