涙のあとの笑顔
「本当にあっという間だったね。あの約束を忘れていないよね?」

 酒を一緒に飲む約束。酒の話をしたときに怒った君。怒られながら、フローラは酒が弱そうだと考えていた。
 酔っ払ったら、どんな姿を見ることができる?泣く?怒る?甘える?どれも面白そうだと想像しながら笑った。 ふらふらになったら、しっかりと介抱しないといけない。

「それにしても・・・・・・」

 まさかフローラの村人達が襲いかかるとは予想していなかった。
 魔獣を召喚する書物を盗み出した挙句、王都や他のところでも暴れてめちゃくちゃにしてくれたから、それ相応の罰を与えないと納得できない。
 対戦中に村人の一人がフローラについて教えてくれたけど、そんなくだらないことを真に受けるなんてどうかしている。
 そう抗議すると、男は鼻で笑い、何やら叫んでいた。

「そんなことをできるほど器用な子じゃない」

 ここに来てフローラが意外とドジなことや照れ屋なところなどを知っていった。
 力が弱いと自覚しながらでも、誰かが危険な目にあっていれば、必ず助けていた。
 そんな子が犯罪を犯すと思えない。そもそも、こうして魔獣とともに人を傷つけている人の言うこと自体が信用できない。

「ケヴィン?」
「フローラ、起きたの?」
「ん・・・・・・」

 まだぼんやりとしていて、目を擦っている。その手をやんわりと止めて、フローラの顔を見ると、瞼を閉じたり開いたりしていた。起きようとしているので柔らかい髪を撫でた。

「傷は?」
「フローラが白魔法を使ってくれたから痛みはかなりましになったよ」
「良かった」
「傷。痛くない?」
「うん、もう痛くないよ」

 でも、やっぱり怖かった。思い出したら、涙が出て、慌ててケヴィンに背を向けようとするが、大きな手がそれを許さなかった。

「違うの、本当に痛くないの。ちょっと思い出しただけ、それだけ・・・・・・」

 涙声になっていて、喋るときはところどころ、途切れていた。

「そうだよね、怖かったよね。俺も怖かった」
「ケヴィンが?」
「何で驚くの?」
「だって・・・・・・」

 戦っているとき、とてもそんな風には見えなかった。
 いつだって強く、地に足をつけて立っているのに。

「大切な子が目の前で殺されそうになっているのに、恐怖や怒りを感じない訳ないよ」
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