涙のあとの笑顔
「お腹は空いていない?」

 ケヴィンの問いに私は首を横に振って、否定した。

「食欲があまりないです」
「うーん、何も食べなかったら、また倒れるよ?少しでも食べよう?何か軽いものを持ってきて」
「かしこまりました。すぐにお持ち致します」

 そう言ってイーディさんは静かにドアを閉めて出て行った。
 混乱と緊張で息が詰まりそうになる。
 いくら辛い状況に立たされても、すぐには理解することができなかった。
 けれど、これからどうするかを考えて行動しなくてはならない。
 金がたくさん残っているといっても、しばらくしたら底をつくだろう。他に持っているものといえば、武器と本、薬くらいだった。
 誰が火をつけたのかはもちろん気になるが、どうやって見つけ出せばいいのだろう。
 考えていると、視線を感じたので見ると、騎士様が見ていた。

「何ですか?」
「いや、可愛らしい顔をしているなと思って」

 嘘ですよね。おそらく眉間に皺を寄せていましたよ。そんな顔が可愛いわけがない。
 睨みつけると、にこっと笑っている。何でそこで笑うのか、理解できなかった。
 イーディさんが戻ってきて、テーブルに器を置いてくれた。
 湯気が立っている卵粥が美味しそう。
 イーディさんは私にスプーンを渡そうとしたとき、横からそれを奪った。
 奪った犯人は騎士様だった。

「俺が食べさせてあげるから、口を開けて」

 卵粥をスプーンですくって、口元まで運んできた。
 恥ずかしくて、口をしっかりと閉じていると、イーディさんが助けてくれた。

「ケヴィン様、彼女が困っていますよ」
「どうして?」
「恥ずかしいのですよ。それ、渡してあげてください」

 けれど、スプーンを渡す気なんてないらしく、運んだままだった。
 きりがないと思ったのか、彼は私の頬に少し力を入れて、口を開けさせた。
 口の中に広がるのは卵粥で、痛みを感じながら食べた。

「ケヴィン!無理矢理することないでしょう!」

 さっきと口調が変わり、驚いていると、騎士様が指先で頬を優しく撫でた。

「ごめんね。でも、素直に食べてくれないから」

 イーディさんはまだ睨みつけていると、彼は私から視線をはずし、彼女に目を向けた。

「そんなに怒らなくてもいいでしょ。小さいときからいつもそうやってすぐに怒る」

 小さいとき?ずっと一緒だったってことなのかな。
 疑問を抱いていると、その答えを教えてくれた。

「イーディとは幼馴染でこっちが俺より一つ年上。ちなみに俺は二十六歳だよ」

 私よりかなり歳が離れているんだ。

「あの、私は十八歳です」
「そうなんだ。十四か十五くらいに見えたよ」
「そうですか」
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