涙のあとの笑顔
 何?これ、ひょっとして薬?
 背中には木が当たっている。誰かが木の上にいる。痺れが消え、魔法を敵にぶつけると、苦しみながら激しい音をたてて倒れた。

「すごい、動かなくなった」
「倒せるなんて・・・・・・」
「ふう、大丈夫?腕を見せて」

 男の子の腕に白魔法を使った。

「他に怪我はない?」
「大丈夫、ありがとう!」
「あなたも怪我をしている!」
「血が出ているよ!」

 自身も怪我を負っていたので、同じ魔法を使った。

「送るよ、どこまで行くつもりだったの?」
「学校だよ。街まで買い物をしてから帰ろうとしていたところだったから」
「ここから近いね。歩ける?」
「何とか」
「俺達も大丈夫」

 それから彼らを学校まで送って行った。帰りが遅かったため、先生達は心配していた。

「良かった。戻ってきてくれて」
「この子達を守ってくれて本当にありがとう」
「いえ、傷の手当てはしましたが、どうか安静に。では、失礼します」

 名前を教えてくれとせがまれたが、通りすがりとだけ伝えた。
 学園を出てある問題に気づいた。

「これは困った」

 上着には血が付着している。このままではばれてしまう。上着を脱いで小さくたたんだ。

「まだ痛いな」

 私達を助けてくれた人が誰なのかわからないままだった。もやもやとした気持ちを抱えながら、城へ入った。
 階段を上っていくと、よく知っている後姿が見えた。

「アンディさん」

 くるりと振り返った。そのとき気がついた。マントが少し汚れていて、肩にも葉っぱがくっついている。

「さっきはありがとうございました」
「何のことだ?」

 礼を言ってから部屋へ戻った。幸い部屋にイーディはいなかった。ほっとして上着を隠した。
 血の匂いを消すためにバスルームへ転がり込んだ。
 いつも以上に念入りにごしごしと体を洗った。髪の毛も少し多めにつけた。シャワーですべてを洗い流すと、湯が血と混じっていた。
 バスルームから出ると、イーディが部屋に来ていた。

「フローラ、どうしたの?」

 風呂に入るにしては時間が早いので驚いている。動揺を悟られないように笑顔を見せた。

「今日も外へ出かけていたの。汗をたくさんかいたから風呂に入っていたの」
「本当に?」
「うん」

 イーディはそれ以上何も言葉を発さなかった。
 今日までケヴィンが仕事でいなくて少し安心した。もちろん寂しさもあるけれど、もし彼がいればきっとばれる。

「ケヴィンがいなかったら、こんなに部屋が静かになるのね」
「そうね。一人いないだけでこんなに変わるなんて・・・・・・」
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