涙のあとの笑顔
力と勝負
 後からステラに聞いてわかったことがある。
 今まで私に言わなかったのはケヴィンに口止めをされていたからでもあったのだ。お姉ちゃんに心配をかけるといけないからと言っていたらしい。
 いつからか二人は手紙のやり取りをしていたということも後にわかったことの一つ。
 だけど長い間黙っていたことに罪悪感を感じ、あの日に私を呼び出して話した。
 ステラが本当に落としたのか、あるいはステラに気づかれないように奪ったのかもしれない。

「腹が立つ」

 はらわたが煮えくり返りそうになるとはまさにこのことだ。
 ステラは自分が騙されているとは思っていない。ケヴィンのことを今でも信用している。

「どうすればいいの?」

 ケヴィンの実力がどれほどのものか知らない。たとえ知ったとしても、到底かなわないだろう。
 このまま嘆いていても仕方がないと想いながらも苦しむことしかできない。
 今日もケヴィンは姿を見せていない。おそらく勝負のときまで姿を見せないつもりでいる。
 食事が美味しく感じられない。いつもならそんなことを感じないのに。

「ケヴィン、どうしたのかしら?」

 姿を見せなくなったからイーディは困惑している。

「部屋へ行ってもいないみたいなの。ちょっと心配だわ」
「そうだね」
「いつもなら真っ先にここへ来るのに何をしているのよ」

 何度かイーディに本当のことを話そうかと考えたが、どうしてもできなかった。

「フローラ、元気を出して。ね?」

 優しい眼差しは私の胸をより一層強くしめつけた。
 鍵を取り戻すには実力行使しかない。
 こんな形で武器を使うことになるとは思わなかった。
 城の外に出ることはなかった。どこへ行っても、何をしていても、二人のことを考えるばかりだった。
 そして約束の日がやってきた。私は誰にも気づかれないように外へ出た。

「こうして会うのは久々だね、フローラ」

 静かな空の下に現れたケヴィン。

「抱擁はしてくれないの?」
「前ならそうしていたよ。でも今はしない」

 今日は風がない。まるでこれからの勝負の邪魔をしないように。

「始めようか」

 するりと剣を抜いて、こちらから攻撃を仕掛けた。それを待っていたと言わんばかりに受け止めた。

「ほら、おいで」

 挑発するように誘い出す。
 私は両手で剣を持っているのに対し、ケヴィンは片手だった。それが余計に私を苛立たせた。
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