涙のあとの笑顔
「空腹のようだな。食べに行くか」
「あの、私・・・・・・」
「俺も腹が減っていたからちょうどいい」
 
 店の中に入ってドンと椅子に座らされ、荷物を下に置いた。

「いつものを頼む。お前は何にする?」

 軽くメニューを見てから、何でもいいと結論づいたので、同じものにした。
 店主は私と彼を交互に見て笑った。

「ノア、彼女?」
「違う。さっきそこで会っただけだ。クレイグ」
「ノアさん?」
「ノア・キーツ。それが俺の名前。お前は?」
「フローラ・モーガンです」
「よろしくな」
「クレイグさんとノアさん、似ている」
「そりゃそうだ。俺達は兄弟なんだから」

 だから似ていたんだ。クレイグさんが兄でノアさんは弟だろうな。

「クレイグは俺の兄貴だ」
「そうですか」
「あ、やっぱりここにいた」

 知らない女性がノアさんに話しかけてきた。

「ルアナ。どうした?」

「時間があったから来たの」

 セミロングの綺麗な女性がこっちを見た。

「ノア、いつから彼女ができたの?」

「だから違うって言っているだろう。フローラだ。フローラ・モーガン、こいつは幼馴染のルアナ・ブルック。魔法大学の学生だ」
「よろしくね、フローラ」
「よ、よろしくお願いします」
「そんなにかしこまらなくても平気よ」
「そうそう、敬語なんて不要だ。呼び捨てでいいから」
「にしても、どこでこの猫ちゃんを捕まえたの?」
「すぐそこでお腹を鳴らしながら空を眺めていたから連れてきた」

 キッと睨むとケラケラと笑っている。

「あ!」
「どうしたの?」
「フローラって、城に住んでいる?」
「そうだよ。どうして?」
「思い出した。ケヴィンのお気に入りの。話は聞いている。そうか、なんか見かけたことがあると思えばそういうことか」

 もしかしてこの人はケヴィンと同じ?

「あの城で働いている騎士様?」
「そうだ、俺も有名なんだぜ。ここまで来て、あいつと喧嘩でもしたのか?」

 何も言えなくなってしまった。この間まで彼と戦っていたのだから。
 私の様子を見て何かを悟ったのか、それ以上何も訊かなかった。
 クレイグさんは注文の品を置いた。

「注文いい?いつものにする」
「かしこまりました」

 クレイグさんの後姿を見送り、スープを飲んだ。
 美味しいけど、少し物足りない。隣にいるはずの彼はいないことはわかりきっているのに。

「元気がないな。もし、お前が望むのなら、あいつを叩きのめしてもいいぜ」
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