涙のあとの笑顔
寝顔と朝食
 コンコンとドアを叩く音がしたが、空耳だろうと寝返りを打った。
 お願いだからもう少し寝かせて。
 誰かの足音が近づいている。起きる気はなく、夢の中へ吸い込まれそうになっていた。

「起きて。朝だよ」

 頬を指で突かれたり、顎をくすぐられたが、それを振り払い、布団の中へもぐった。
 朝食はあとできちんと食べるから。

「何でまた寝るのかな?」

 ベッドの一部がへこんだので、その異変にようやく目を開けた。

「誰?」

 誰かが傍にいることはわかるが、まだ完全に目が覚めていない。

「だーれだ?」

 男の人の笑い声がする。時間をかけ、やっと目の焦点が合った。

「ケヴィン?」
「正解。おはよう、フローラ」
「おはよう」

 ペコッと頭を下げながら挨拶すると、よしよしと頭を撫でられた。

「寝ぼすけなんだね。可愛い」
「そんなことない」
「そんなことあるよ」

 まだ眠く、目をこすっていると、ケヴィンの手がそれをやんわりと止めた。

「顔を洗っておいで」
「あの!」

 そう言われても、洗面所がどこにあるか知らない。

「あの、どこにありますか?」

 恐る恐る尋ねると、楽しそうに笑った。

「あっちだよ」

 指した方向を見ると、この部屋の中にあったことに気がついた。
 私がいる部屋はバストイレもついている部屋だった。
 ベッドから出て、顔を洗いに行った。水道の蛇口をひねり、勢いよく水を出した。
 水が冷たくて、気持ちがよかった。
 タオルで顔を拭いてから戻ると、ケヴィンは椅子に座っていた。

「あ、あの、仕事は?」
「これから行くよ。何?早く追い出したい?」
「ち、違います!ただ、大丈夫なのかと・・・・・・」

 だって私のせいで遅刻してしまったら大変だから。

「心配ないよ。それと敬語を使わないで。いいね?」
「は、わかった」
「使いそうになっていたでしょ?」
「そんなことない」
「ま、いいや。それよりもう少ししたら、イーディが朝食を持ってくるから一緒に食べよう」
「うん」

 しばらくしてからイーディは朝食をカートに載せてやってきた。

「おはよう、眠れた?」
「眠れたよ」
「フローラを起こしても、なかなか起きなかったよ」
「普通に起こさなかったよね?」
「ばれた?」

 ばればれです。いくら寝ぼけていたとはいえ、それくらいはわかる。

「これから毎日起こしてあげるからね」

 そんなにっこりと笑われても・・・・・・。
 つまり、それは毎日私の寝顔を見られるということになるよね。
 考えたら恥ずかしくなり、布団にもぐった。
 私の反応を見て、ケヴィンは楽しんでいた。
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