涙のあとの笑顔
 これを見た彼に伝わったに違いない。私の過去が悲惨なものだということ。目の前が暗闇なのに、私は未だにそこに居続けている。この状況に耐えることなんてできない。

「俺、フローラのおかげで変わることができたんだ。昔の俺はもっと人として冷たかった。自分が最も正しいんだ、まわりがおかしいと思っていた。けど、そうじゃない。フローラに会わなかったら、きっともっとひどい人間になっていた」
「私にそんな力はない」

 きっぱりと否定した私にケヴィンは話をやめなかった。

「それだけじゃない。もうすぐでフローラがここに来てからもう少しで一年になるけど、本当にたくさんのものを俺にくれた。どれも宝なんだ」

 私がケヴィンに何をあげたって言うの?
 もらったものを記憶していても、何かをあげた記憶はない。

「だったらどうしてあんな戦いを・・・・・・」

 どうして?
 いくら問いただしてもむなしさが広がるだけだった。
 ケヴィンがもし、本気でステラを肉体的にも精神的にも傷つけていたら、私は自分の無力をもっと強く憎むだろう。力のないところは自分の中で最も嫌いなところ。
 これも何度も説明してもらったが、納得できず、怒りが大きくなる一方だった。

「私には何もできない。そう思い知らせたのはケヴィンじゃない。こうして一緒にいる意味なんてない」

 今度は城を出るだけじゃない、すべてを終わらせたい。
 私のすべてを。
 感情が涙となって溢れだしている。痛くて苦しくて悲しい。
 彼の腕から逃れたいのに、どこかでまだ抱きしめてほしいと思っている自分はとても滑稽。
 あんなことをされてもまだ好きと思っているなんて。

「好きだからどんなに拒絶しても離れさせない」

 あまり聞かない低い声でそう言われた。

「こんな傷だらけなのに好きだなんて・・・・・・」

 本当にどうかしている。狂っている。

「俺にとってこれの有無は関係ない」
「私は大いにあるよ」

 理不尽な理由でつけられた傷。見ないようにしていたもの。
 小さい頃、父親が病気で亡くなり、母が私を育ててくれた。だけど母とは不仲だった。父の死と仕事の疲労のため、ストレスが溜まり、それをすべて私で発散させた。
 ある日、私の家の近くに女の子がやってきた。美人で優しくて男子から人気者だった。私も友達になりたくて話しかけた。笑顔で受け入れてくれたことに喜びを感じていたが、そういう態度を見せるのは近くに男子がいるときだけ。私と二人きりになると、態度が豹変した。侮蔑の眼差しを向けながら、ひたすら罵声を浴びせられた。
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