涙のあとの笑顔
 初めて会ったときのフローラは足元がふらついていて、顔は青ざめていて、少しぶつかっただけで倒れてしまいそうな細身の女の子。俺が近寄ると、気を失ってしまった。抱き抱えると、重くなかった。そのまま城へ連れて行って、ベッドに寝かせ、改めて見ると、可愛らしく、惹かれた。
 女の子を見てそんなことを思ったことはなかった。この子と話してみたい、もっと知りたい、自分を見てほしい。
 このときから欲望は膨れていった。戸惑いは最初だけ。どんどんそれが嬉しくなってきた。
 何の力もない子じゃなかった。弱くなんかなかった。そう強く思ったのは俺と勝負をしたときだった。自分の守りたいものを精一杯守ろうとする姿に目を逸らさなかった。
 負けが見えていても、引こうとはしなかった。怖くて堪らないのに、それでも前に出ていた。
 今、何をしているのだろう?
 無理していないか、泣いていないか、独りじゃないか。
 そんなことしか考えられなくなっていった。
 フローラは人を惹きつける力も持っていることは前から知っていた。多くの人達が注目する、近づく、変化を見せていく。それは俺も含まれる。
 可愛らしいが、ときどき憎らしく思うこともある。俺だけに感情を向けてくれたらどんなにいいか。
 フローラのことでよくイーディと言い合いをしてしまう。向こうもフローラのことが大好きだから余計に苛立つ。まったく、もっと別のことをすれば、二人でいられるのに。
 俺が好きになっているようにフローラにも同じくらい好きになってほしいから、抱きしめたりキスをしたりした。
 初めて唇にキスをしたときの驚いた顔。本人は無意識だろう。そのあと蕩けた顔になっていた。
 もっと見たい。
 もう少ししたらまた仕事をしなくてはならない。早くあの子のいるところへ帰りたい。
 そんなことを考えていると、ご飯を抱えたノアが俺の目の前までやってきた。

「よう!何考えているんだ?」
「ノア!フローラのことだよ」
「相当惚れているな」
「まぁね。あーあ、あの子と一緒に食べたい」

 目の前のご飯を見ながら、本気でそう思う。

「本人とは仲直りはしたのか?」
「怒って俺を部屋に入れないようにしていた」
「あはははは!!相当ひどいことをしたみたいだな?ひょっとしてその怪我もあの子にやられたのか?」

 その傷とは額の引っ掻き傷のことを言っている。
< 67 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop