涙のあとの笑顔
「これは猫にやられただけ」

 ノアはさっきより大声で笑い出した。

「無様だな!」
「五月蝿いな。久々にやるか?」
「冗談、また今度でいいだろ?」

 ようやく笑いがなくなってきた。

「お前、恋愛なんてどうでもよかったんじゃなかったのか?」
「今はそう思わない」

 フローラに夢中なので、これが恋愛だと自覚する。

「前までは女を見る度に嫌悪に満ちた表情をしていたのにな」
「俺に擦り寄ってくるものなんてフローラだけでいい。他は邪魔だよ」

 どの女を見ても、同じ顔に見える。視力が低下したのではない。

「そうだ、学園祭のときにフローラ達と会ったぜ」
「そんな話は聞いていない」
「おい、殺気が出ているぞ!何もしていないからな!」

 否定すればするほど、怪しく思えてくる。

「じゃあ何をしていたの?」
「ちょっと話をしていただけだ。俺はあの日、ルアナと行動していたんだ」
「変なことはしていないよね?」

 ノアをじっと見ると、頭を抱えた。

「少しは信頼しろよ。何もしていない」
「ノア、フローラはいろいろな人達とすぐに仲良くなる。お前もだろ?」
「友達って言うほど、まだお互いのことを知らないぜ」
「数回しか会っていないからね。あの子がどれだけ可愛いか、そんなの俺がよくわかっている」
「惚気話を聞かせる気か?」

 ノアは勘弁してほしそうだった。

「そんなに聞きたいんだ。ふふっ、いいよ」
「いや、俺は・・・・・・」

 遠慮しているノアに話を聞かせることにした。

「フローラのどんな表情も好きだよ。寝ているときは布団を取り上げたら、俺にしがみついてくる」

 布団をかけたままにすると、何の反応も示してくれないからそうする。

「まさか一緒に寝ているのか?」
「最近はね」

 ときどきキスをしているけどね。本人は夢の中で起きる気配はない。

「あとは俺が意地悪したときに見せる泣きそうになりながらも睨みつけてくるのもいい」
「頭、大丈夫か?」

 ノアは俺の額に手を当ててくる。

「失礼だな」

 ノアの手を容赦なく叩き落した。

「だって恐ろしい発言ばかりするから」

 痛がりながら自分の手をさすっている。

「素直に言っているだけだよ」

 ご飯を食べるノアの速度が遅くなった。

「何を食べているのかわからなくなってきた」
「じゃあ俺がもらう」

 ご飯を自分に寄せようとすると、ノアは全力で阻止した。

「てめっ、自分のものがあるだろう!」
「嘘だよ。そんな食べかけのものを本気で欲しがらない」
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