涙のあとの笑顔
「誰にもやらない!」

 食事に味気なさを感じたので、常に持っているフローラの写真を取り出した。

「それ、学園祭のときの写真か?」
「見ていいのは俺だけ」

 見ることに夢中になっていると、ノアが話しかけてきた。

「にやけているぞ」
「それほどにやけていない」
「こんな顔を見たら、さすがにメイドも引くだろうな」
「フローラに俺だけのメイドになってほしい」
「まじかよ!?」

 ノアは目を見開いて驚いている。

「そしたら今よりもっと独占できそう。それに似合うだろうしね」
「それ本人に言うなよ?」
「どうして?」
「怒るか、真っ赤になって逃げる」
「逃がさない」
「フローラ、厄介な奴に好かれたな」
「本人の前でそんな言い方はないんじゃない?」
「事実を言ったまでだろう」
「早く会って抱きしめたい」
「この後の仕事もしっかりとやろうぜ」

 写真をしまい、残っているご飯をさっさと食べ、仕事を再開した。
 それから仕事が終わった夜に俺はフローラを散歩に誘うことにした。

「これから二人で出かけよう」

 俺の誘いにポカンと口を開けている。

「どこに?」
「どこか。フローラが行きたいところがあるならそこでもいいよ」
「私はここにいる」

 それは言わないでほしかった。

「退屈させないで。時間があるから行こう」

 強引にケヴィンに外に連れ出された。

「だんだん人気のないところへ行っていない?」
「二人きりになりたいし、部屋だとゆっくりできない」

 どうしてこの人から離れることができないのだろう。いつだってそう。ずるずると何かを引きずっているような感覚。

「今日、少しだけ寝ていたんだ。それで夢を見たよ。俺にとって思い出したくない夢」
「私が聞いて困らない?」

 ケヴィンはそっと私の腕を引いた。

「困らない」

 私を優しく抱きしめ、髪を撫でながら話を続けた。

「十年近く前に女の子とよく一緒にいたんだ。イーディもその子を知っている。俺は友達としてその子と接していたけど、しばらくしてから告白された。俺は数日後に告白の返事をしに行った。断りの返事を。そしたら、別の男の子と話しているのを偶然聞いた。俺に近づいていれば将来自分にとってとても得をする、金持ちだから何でもできるって。その後はその男の子とキスをしていたよ」
「そんなの!」

 ひどすぎる。ケヴィンのことを初めから好きじゃなくて、利用するためだけに近づいたってこと!?

「それからだよ。女性に興味を持たなくなったのは。これがずっと続くと思っていた。けど違った」
< 69 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop