涙のあとの笑顔
 強い眼差しが私を捉えている。

「俺もわからなかった。ここまでフローラを好きになったのか。だけど君と過ごすようになってから楽しいって思えるようになったんだ」
「思わなかったの?私がその女の子と同類かもしれないって」

 すぐに返事をしてきた。

「うん。だってお金があることを知っていても、俺やイーディを頼ろうとしなかったし、何よりフローラは他の人達と違うからね」
「違う?」
「違う」

 はっきりとした声だったので、嘘ではないと判断した。

「他の女の子達といても楽しくなかった。目的はほとんど同じだから。でもフローラはそんなことを考えていない。初めは計算で動いているのかと考えたこともあったけど、すぐにそれは消された」
「金持ちになりたい訳じゃないし、それ目的で近づくなんて馬鹿馬鹿しいと思っているよ」
「どんな未来にしたいとか考えている?」

 このとき私の表情は曇った。
 未来。私にとってとても遠いもの。手に届くことなんてない。

「私、未来について考えたことがない。イメージが全然できない」

 今まで明るい人生をほとんど送ったことがない。味方と呼べるものは極わずかでその人達はずっと一緒にいられなかった。
 いつだって馬鹿にされ続けていた。どこへ行っても駄目と言われた。
 力を求めて、少しずつレベルを上げていった。それでもまだ弱いことを実感する。

「フローラ、幸せになりたくない?」

 冷たい風がそっと頬を撫でた。

「俺は幸せになりたい。だけど一人ではなれない」

 何が言いたいの?

「フローラ、俺の傍にいて。でないと、俺はいつまでも幸せになれない」

 ケヴィンの声が少しかすれている。

「俺にとってたった一人の女の子なんだ」
「私は・・・・・・」

 以前のようにケヴィンの背に手を回すことができたらどんなにいいか。
 どう言葉にしたらいいのかと頭を回転させていると、私の唇に指を添えた。

「いいよ、ゆっくりで。気長に待つから」

 あんなことをしなければ、この子は俺の恋人になってくれたのかな。
 欲を出した俺への罰だろうな。時間をかけていくか。それとも何をしてももう無理なのかな。
 そんなことを考えていると、フローラが話しかけた。

「ケヴィン、寒くない?」
「それは俺の台詞。寒くないよ。フローラは?」
「寒くないよ」
「こうして抱きしめているもんね」
「もう!すぐにからかう」

 ケヴィンの笑顔につられて私も笑った。こんな風に笑いあうのは久しぶりでどこか懐かしく感じる。
 
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