涙のあとの笑顔
「で、でも・・・・・・」
「怪我人のあんたがいても足手まといになるだけだ。わかったら来い」

 肩に手を回され、そのまま連れて行かれた。

「どこへ行くのですか?」
「治療がしやすいところに決まっているだろう。ほら、座って腕を出せ」

 言われたままに腕を出すと、魔法が私の腕を包み込んだ。

「ありがとう、白魔法も使えるの?」
「そう、あんたと一緒だ。フローラ」

 ばっと顔を上げて、彼を見ると、声を出さずに笑っている。

「あなたは誰?どうして私の名前を知っているの?」
「あんたはこの辺りじゃ有名だが、俺は昔から知っているんだ。まぁ、今の状態だとわかるはずないよな?」
「どうしても思い出せない。私達はどこで・・・・・・」
「あんたの保護者が来た。近いうちにまた会えるから。じゃあな」

 彼はは風のように去っていってしまった。
 
「フローラ!」
「ケヴィン!おかえり」
「ただいま。そうじゃない!さっきまで何をしていたの?」
「えっと、いろいろだよ」
「隠したって知っているからね!街にいた魔獣を倒したって他の騎士達から聞いた」
「聞いたのなら私に言わせないで!」
「その腕は何?怪我まで負って!」
「でも治療を・・・・・・」
「したとしても俺が何も感じないとでも?もういい、部屋まで戻るよ」

 部屋に戻ったあとはイーディにも散々今日の出来事を話すことになった。
 この程度の傷、どうってことないのに。
 そう心の内で思いながら、心配する二人を交互に見て、もう大丈夫と何度も伝えた。
 私を助けてくれたあの男の人はは私のことを知っていた。だけど私は彼のことを何も知らない。
 また会えると言っていたのは、会いに行くという意味なのか、それとも私がまるで導かれるように会うということなのか謎が深まる一方だった。
 あの場所へ行けば会えるのではないかと、治療してもらったところへ何度か行ったが、誰もいなかった。
 このことを日記に書き終えたときにノックの音が鳴った。誰だか見当がつかないまま、恐る恐るドアを開けた。
 だけどそこには誰もいなかった。ドアの外から出て、左右を見るが、人は一人もいない。おかしいなと思いながら部屋へ入ると、大きな手が私の口を塞いだ。手で押し退けようとしたが、両手を上に持ち上げられ、片手で拘束された。

「暴れるな、何もしない」

 聞き覚えのある声に目を開けると、そこには見覚えのある男が立っていた。
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