涙のあとの笑顔
「レナード?あなた、レナードなの?」

 街で会った人と違うが、声も姿も過去の記憶に強く残っている。

「この姿で会うのは何年ぶりだろうな?フローラ。それとも久々にお嬢ちゃんと呼ぶか」

 彼の名はレナード・シートン。銀髪に鋭い目つき。自信たっぷりの表情。
 あの頃と変わっていない。
 そして私があの女に嵌められ、悲惨な目にあってたことを知っている人物。

「前の姿は単なる変装にすぎない。本当の姿をあのときにも見せても良かったが、こうして驚かすのが楽しいと思ってやめておいた」
「どうしてここに?」
「会いたくなったから」
「本当のことを教えて」
「信用ないな。約束しただろう。ほら、これ」

 取り出したのは一冊の本。昔、よく読んでいた私の本。

「お嬢ちゃんと別れる前に俺が奪ったもの」

 その本は父から誕生日プレゼントとしてくれたものだった。私の大切な宝物。

「しかし驚いた。今よりもっと強くなってみせるって言っていたから山にでもこもっていたのかと思えば、こんなところであの兄ちゃんに大事にされていたとは・・・・・・」
「偶然会ったの」
「らしいな。聞いたぜ。かなり溺愛されているな。昔は想像もつかなかっただろう」
「そうだね」

 今から約六年前、私は数々の罪を犯したと周囲から疑われ、その罰として牢屋のようなところへしばらく閉じ込められた。当時は不良であちこちで暴れていた彼と。閉じ込められていても、自分の無実を訴えたが、誰も耳を貸さなかった。この人以外は。

「嫌!ねぇ、話を聞いてよ!」
「ちょっと静かにしたら?もう夜だ」
「誰?」

 あちこち傷だらけの男の人が座っていた。

「俺、ここでは悪名で広がっているけど、知らないんだな」
「知らない。ここから脱出したいの」
「できれば俺はとっくに出ている。それと自分から名乗れ」
「フローラ・モーガン」
「俺はレナード・シートン。よろしくな、お嬢ちゃん」
「よろしく」

 こんなところで何を挨拶しているのだか・・・・・・。何だか情けない。

「傷、痛くないの?」
「慣れている」
「動かないで」

 白魔法で傷を治すと、レナードはそっと傷跡を指でなぞった。

「やるな」
「それほどでも」
「いきなり退屈しのぎができるって聞いたから何かと思えば、思いがけない玩具が飛び込んできてくれたんだ」

 ちょっと待って、この人はさっき、悪名で有名だと言っていた。そんな人と同じところにいるなんて危険すぎる。
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