涙のあとの笑顔
 ここに来たばかりのときは俺の冗談を真に受けて寝る体制に入らなかったが、抱き寄せ、頭を撫でるとすぐに寝ることを知ったので、いつもそうして寝かすようにしている。それがこのお嬢ちゃんの催眠療法だ。
 ちなみにキスをしたときはビクッと震え、背筋を伸ばす。見たときは笑いそうになったが、そのときの表情は悪くない。驚いた表情から次第に蕩けた表情に変わっていく。それはまるでキスをねだっているように見える。まだ子どものくせにそういうことができるなんてそれこそ驚きだと思った。
 この子がここに閉じ込められてから一度だけあの女が一人でここへ来たことがある。
 そのときお嬢ちゃんは風呂へ入りに行っていたので、俺との対面となった。

「あの、彼女は?」

 甘えるようなしぐさ、猫撫で声、容姿で馬鹿な男達は一瞬で落ちるだろう。本人もそのことを理解しているからこそ、こうして今も俺を舌なめずりしながら近づく。
 馬鹿が、欲が駄々漏れになっているぞ。
 俺は愛想笑いをして、今は少し呼び出されていると嘘を吐いた。そのときこいつは残念そうにした。悲惨な生活を送っているところを見るために来たのだろう。
 本当に悪趣味な女だな。
 お嬢ちゃんが戻ってくる前に早く追い出さないとな。

「あの子、元気?ちゃんと寝ている?」

 うわっ、今度は心配するふりをしてきた。
 顔をしかめそうになったが、笑みで誤魔化した。

「優しいな。ひどいことをされていただろう?」

 するとこいつは困ったように笑って見せた。

「だって似ているから」
「誰に?」
「私の妹に。だから放っておけなくて。今までの行いをきちんと反省してほしいの。そしたら私、許せる気がして・・・・・・」
「そっか・・・・・・」
「そろそろ戻るね?おやすみなさい」

 媚笑をしながら立ち去り、気配が消えた。その場に横になって、冷笑を漏らした。

「醜いな・・・・・・」

 あんたに妹なんていないだろう?一人っ子だということを知らないとでも思っていたのか?
 寝ていると本気で思っていないだろう?俺がいなければきっと嗤笑しながら、お嬢ちゃんにひどいことを言い続けていただろう。俺が優しくしてようやく寝ることができているの。

「ふざけやがって!」

 こんなところは似合わない、もっと違った場所を連れて行ってやりたい。
 ここを出たら、あの女も他の奴らもぐちゃぐちゃにしてやりたいな。
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