涙のあとの笑顔
「甘い」
「なかなかだな」
「待って!キスをするために騙したの?」
「俺が悪いとでも言いたいのか?馬鹿なことを。騙されるお嬢ちゃんが悪いんだ」

 大人しく私が話を聞いているときもキスをしてきた。私はどれだけ学習能力がないの?昔から変わりのない手口に引っかかっている!恋人じゃないからキスをしないでよ!

「騙す人が悪いの!」
「もう一切れくらい、ケーキをくれ」

 今度は騙されないと思いながらケーキを渡してギュッと目を瞑っていると、今度は音がしっかり耳に入るくらいのキスをされた。

「さっきから何なの!?」
「目を閉じるから本当は待ち望んでいたのだと思って・・・・・・」
「自惚れないで!」
「じゃあ、無防備になるな。ホール内でもそうだった。どれだけ注目されていたか知るはずもないだろう?」
「注目されていないよ」
「鈍いな」
「鈍くない」
「喧嘩はこの辺にしておかないか?今度は俺が食べさせてやる。ほら、口を開けろ」

 ケーキを口にしたとき、さっき食べたものより甘く、頬が緩んだ。

「ははっ、美味そうだな。一口もらうぞ」

 キスを避けようと顔を横に向けたとき、口の端にキスをされた挙句、舐められた。

「甘いな」
「あのね、恋人にするべきよ」
「いない」
「じゃあ、やっちゃ駄目だよ」
「嫌だ」

 駄々っ子なの?あなたは。何でそこで嫌がるのさ。

「ホールを出るとき、ケヴィンが中でお嬢ちゃんを捜し回っていたから笑えたな」
「何で言ってくれなかったの?」
「言えば行っていただろう?こうしてのんびりと二人で過ごしたかったから連れ出した」

 否定できない。レナードの言う通り、戸惑いながらでも行っていただろう。
 距離を置くつもりが、自分から縮めようとしているなんて何だか滑稽。ケヴィンのことを考えないようにしても考えてしまう自分を止めることができない。

「お嬢ちゃんと別れてから俺は次の再会が来るまで修行をしていた。あのとき以上の力を求めて。強くなったけど、もっと欲しいと願うな。でないと・・・・・・」
「でないと?」

 俺の大事なものを守ることができない。おかしいな、昔はむかつく奴を片っ端から怪我を負わせ続けてきたのに、たった一人の女に変えられるなんて、誰が想像しただろう?

「聞いている?」
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