甘え下手
店員さんに連れられて彼女がこちらへやってきたところだった。


「沙綾(さあや)、早かったね」

「沙綾ちゃんっていうんだー。めっちゃ可愛いね! 俺、参田仁(さんだじん)。仁ちゃんって呼んでね。ささっ、座って座って」


沙綾のビジュアルを見てテンションMAXになった参田さんは、彼女に私の隣の席を進めながら、声をひそめもせずに堂々と私に言って退けた。


「比奈子ちゃん! 合コンの時のツレは、自分より格下を呼ぶのが定石だろ! もう、比奈子ちゃんって何ていいコなんだ! お兄さん、心配になるよ!」

「誰がお兄さんですか」

「お姉ちゃんの会社の人って面白いね」


沙綾が楽しそうにふふっと笑うと、参田さんの顔は、分かりやすくふにゃっと崩れた。

サタン参田より、沙綾の小悪魔スマイルの方が破壊力が上らしい。


「えっ、お姉ちゃんってことは……妹!?」

「はい、お姉ちゃんがいつもお世話になってます」


どっちかっていうと、私の方がお世話してると思うんだけど。

大人だから黙っておいた。
< 10 / 443 >

この作品をシェア

pagetop