甘え下手
それからも阿比留さんは沙綾には一定の優しさを保ちつつ、私にはいつもみたいにからかったり、優しくしたりを繰り返しながら、沙綾のおしゃべりは止まらないしで、つい何時間も過ごしてしまった。

おかげでしっかり後片づけまで終わらせることができた。


「ホラ、沙綾。帰るよ」

「やだー。阿比留さんち泊まるー」

「阿比留さん、突然おじゃましてすみませんでした」


沙綾を抱えるように腕を持って、玄関口でぺこりと頭を下げると、阿比留さんは「今更だな」と苦笑した。


「阿比留さん、また飲みましょうねー」


沙綾は笑顔で自分のスマホを阿比留さんに向かって振った。

いつの間にか番号交換までしたらしい。


私よりもお酒に弱い沙綾は、足元がフラついているものの、ご機嫌だ。

連れて帰るのも大変だから、ここからはタクシーで帰ることにした。


鼻歌を歌いながらエレベーターに向かって、スキップでもするような足取りで歩きだす沙綾を追おうとすると、阿比留さんに後ろから腕をつかまれた。

そのまま廊下に出かかってていた身体は玄関の中へと引き戻される。
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