甘え下手
***

「恋ってなんなんだろう」

「どうしたの、急に。ついにはしかみたいな初恋から目が覚めたの?」

「目が覚めた……? 分かんない。分かんないけど……」


お昼休みの屋上。

モヤモヤした気持ちを抱えきれずについ秋菜に漏らしてしまった。


自分の気持ちがアメーバみたいに分離した気がする。

それって二股ってこと……?


「うわわわ、悪じゃん、私!」


自分でビックリしていると秋菜がぷぷっと吹き出した。


「あのねえ、悪っていうのは二人の男を手玉に取れるイイ女だけが使える言葉よ。アンタのはどっちにしろ単なる片想いでしょうが」

「う……」

「しかも櫻井室長もハードル高いけど、阿比留さんなんて遊んでる分、もっとハードル高いわ。比奈子には絶対ムリ。傷つく前に手を引きなさい」

「……手を引くも何も、手なんか出してないもん」


秋菜の言葉の意味はよく分かる。

大体、沙綾が阿比留さんのことを気に入っている。


あの子と同じ男の人を好きになるだなんて、私には一番避けたい事態だった。
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