甘え下手
「あの……、宇野さんと甲斐さんは」

「ああ、百瀬は風邪気味だから今回はやめておくって伝えておいたから大丈夫だよ。久しぶりに甲斐さんと飲めて俺も楽しかったし」

「本当にすみませんでした……」

「もともと俺は比奈子ちゃんをコンパニオン代わりに連れてくなんてしたくなかったしな。広哉に怒られる」


そう言って笑う櫻井室長はセットも決まっていない濡れ髪で、会社でみる『櫻井室長』じゃなくて家で会う『航太さん』だ。

呼びかたもプライベートモードに変わってて、少し緊張が解けてホッと息を吐いた。


だけどなあなあにはしたくなくて、私はきっちりと『櫻井室長』に対して謝罪した。


「今後このようなことがないように気をつけます」

「うん。ていうか百瀬は接待なんてしなくていいから」

「……わかりました」

「百瀬は自分の仕事を頑張ればいい」

「はい。この失敗は仕事で取り返したいと思います」

「うん。百瀬は前向きで偉いな」


私に合わせて櫻井室長も上司の顔になって、諭してくれた。


私だって役に立ちたいと思ったのに、空回り。

本当はどっぷり落ち込んでいて、言ったのはただの強がりにすぎなかったけれど、するべき謝罪はしたから、部屋に戻ろうと立ち上がりかけたときだった。
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