甘え下手
「もしもし」

『あー、比奈子ちゃん。元気?』


いつもと若干違うテンションとまわりの雑音に、少し戸惑う。


「阿比留さん? 酔ってるんですか?」

『そっちはどう? うまくいってる?』

「え?」


会話がかみあってないところからしても、阿比留さんが酔っているのは間違いなさそうだった。


『愛しの室長と二人きりで出張なんだって? いいね、うらやましいよ。公私混同し放題じゃん。あ、もしかして邪魔しちゃった?』

「いえ……」


テンション高く意地悪な言葉は吐き続ける阿比留さんに、いつもの私を気遣ってくれる姿はどこにもなくて、私はどう答えを返していいのか分からなくなった。


『生真面目に部屋で悶々してないで、さっさと夜這いにでも言ったらどう?』

「あ、あの、励ましてくれるために、電話くれたんですか……?」


阿比留さんの意図がいまいち掴めなくて、もしかして私にハッパをかけてくれてるのだろうかと予想してみた。

だとしたらその励ましにはもう意味はないのに。
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