甘え下手
「は? 何ソレ」

「愛しの櫻井室長と出張中ってこと」

「なんで? 室違うくねえ?」

「俺が教育セミナーで行けなかったら、櫻井室長が自らピンチヒッターを申し出てくれたんだよ。いや、待てよ。案外比奈子ちゃん目当てだったりして!」

「……ふーん」


なんだそれ、公私混同じゃん。

そんなタイプには見えなかったけど。


「泊まりで?」

「そ。大阪な。ホテルの部屋とか一緒だったりするのかな!? なんかやらしいシチュエーションだよな!」

「ねえだろ。会社の経費使ってんのに」


はしゃぐ仁に不快感を覚える。

そんな自分をもてあまして、箸が進まなくなった。


仁は「食べないなら俺にちょーだい」と勝手に俺の定食に手をつけ始めた。

自分のしょうが焼定食はとっくに平らげている。


どちらかといえば小柄で華奢な体つきなのに、どこにそんな入ってくんだと呆れた面持ちで見守っていた。

カウンターに置いてある皿の全てをすっかりきれいにしたところで、沙綾から「着いた」と連絡があった。
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